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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アンデッドのタダ働き? 編

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105 会社に見学に行く

 俺は立ち上がると、社長に近づいて、その手をぎゅっと両手で包んだ。

「俺もお手伝いします」

 ずっと社長にお世話になっているし、今回は恩返しをしたい。


「だいたいわかりますよ。社長は昔、仲の良かったヴァニタザールが悪の道に進むのを止めたいんですよね。頭数ぐらいにしかならないかもしれないけど、何かやらせてください!」


「フランツさん……」

 社長は俺の行動に少し驚いていたようで、どこかぼうっとしていた。

「こういう告白じみたことをされると、私も年甲斐もなく照れてしまうのですが……」


「あっ、そういう意味じゃないですからね!? すいません、出すぎた真似をしました!」


 メアリがあきれたため息をついているなか、セルリアは素直に拍手を送ってくれていた。

「あらゆるフラグを回収してこその男ですわ。サキュバス・インキュバス語録にもそうあります!」

 その語録、絶対に偏っているだろ……。


「では、『ヴァニタザール開発』のアンデッド救出のプロジェクトチームを発足させましょう。メンバーはひとまず、この部屋にいる人たちということでよいですかね」


「はい!」「うん」「おー、ですわ!」「はーい」

 かなりばらばらだったけど、みんなの声が重なって、プロジェクトチームは生まれた。



 といっても、すぐに何かが変わったというわけではなかった。

 まずはガーベラが事実上のネクログラント黒魔法社の社員ということになった。


 事実上ってどういうことというと、ガーベラには戸籍という概念がないのだ。この王国にもないし、魔界のほうにもない。

 なので、社員として届け出をする時に、ちょっと面倒なことになるらしい。少なくとも時間はかかるらしい。


 で、ひとまず、俺たちの住んでる寮で暮らしつつ、会社の事務作業を手伝ってもらっている。ガーベラは魔法使いでもないので、働ける内容も限定されてくるのだ。


 最初は慣れないところもあったようだけど、こつこつとガーベラは働いた。

 そして、働いている時に、ふっとあることに気づいたらしい。


 ある日の夕飯の途中、その時もガーベラはあつあつのスープをちっとも冷ましもせずにごくごく飲んでいた。

「あのねー、ワタシ、これまで働いてきて、一番うれしかったんだよねー」

 マイペースなガーベラだけど、かなりご機嫌に見える。

「へえ、いったい何があったんだ?」


「今日、働いてたら、ケルケル社長が『おかげではかどりました。ありがとうございます』って言ってくれたんだよね」

 それから続きがあるかと思ったけど、ガーベラはまた食事に戻った。味はしないらしいけど、食べるのは嫌ではないらしい。


「え、それだけですの?」

 セルリアもきょとんとしていた。

 もっと具体的な内容があると思っていたんだろう。ちょっと拍子抜けする内容だ。


「だって、前の場所で働いてた時は、ありがとうって言われることなんてまったくなかったもん。あー、感謝されるってこんなにいい気持ちになるんだなーって。きっと、それまでも社長はありがとうって言ってたはずなのに、ワタシ、マヒしてて気づいてなかったなーって」


 ガーベラの話し方は軽いけど、その話は俺たちの心にしっかりと残ったと思う。

 まず、アンデッドはありがとうの一言も言われずに奴隷労働をさせられていたんだな、ということ。

 それと、アンデッドだって感謝されるとうれしいんだ、ということ。


「絶対、ガーベラの仲間たちを助けてやる。アンデッドは機械でも道具でもない。心がある存在なんだ」

 俺はスプーンを強く握った。


 だけど、どうすればいいだろうか。

「敵の内情を俺たちは知らなすぎる。せめて、もっとしっかりと見ておかないと……」


「あっ、そうですわ」

 ぱんとセルリアが手を叩いた。

「わからないなら、見せてもらえばいいんですわ」


「秘密裏に忍び込むってことか?」

「いえ、正式に申請してみればいいんじゃありませんこと? 別に相手は法的に後ろ暗いことはしてないわけですし、OKも出るかもしれませんわ」


 いくらなんでも、セルリアは性善説で動きすぎなんじゃないか。あの会社は敵も同然なんだから見学させてくれないだろ……。

 と、最初は思ったけど、安易な否定は言うべきじゃないと自分を戒めた。


 あのケルケル社長も、すぐに可能性を捨てるようなことはしてないはずだ。そのおかげで、今のネクログラント黒魔法社がある。俺も社長から見習うべきだ。


 たしかに絶対にありえないという根拠まではないし、もし断ってくれば、後ろ暗いことがあるんじゃないのかと言えもする。

 攻める手段がない状態なのだから、試すだけ試せばいいのだ。


「わかった。じゃあ、社長にも言って正式に申請を出してもらおうか」


 結果から言うと、本当に許可が下りた。

 社長いわく「ぜひとも、我が社のやり方こそスタンダードであるということを見てみなさい」なんてことが書いてあったらしい。


 そっか、敵だから隠すんじゃなくて、むしろ敵だからこそ見せびらかしたいんだな……。



 トルミー郡までの道のりはそれなりに遠かった。

 行きは途中までトトト先輩にドラゴンスケルトンに乗せてもらえたからよかったものの、とにかく辺鄙なところだ。


 向かったのは、俺、セルリア、メアリの三人。ガーベラを連れていくと何をされるかわかったもんじゃないし、彼女も絶対に戻りたくもないだろうから、残ってもらった。


 砂漠の中の道をラクダに乗って移動していくと、やがて、唐突に『ヴァニタザール開発』と書いてある大きな看板が見えてきた。


 はっきり言って、外観だけならこぎれいで問題のある企業には見えない。


 受付も丁寧な物腰の女性が座っていて、見学に来た者だと告げると、社長のヴァニタザール本人が出てきた。やっぱりお面をつけているので、顔はまったく見えない


「まさか、律儀に申し込んでくるとはね。しかし、その勉強熱心な態度は嫌いではないわよ。じっくり見ていって、このシステムが完璧であると負けを認めるがいいわ」

「できるだけ冷静に、客観的に確認させてもらいます。俺もまだ社会人一年目だし、知識はたくさん仕入れたいんで」


「うん。それがいい。我が社に転職したくなったら、いつでも言ってくれていいから。それじゃ、私がじきじきに案内するわ」

 お面の横から顔が見えないかなと思ったけど、さっと手で隠された。

ダッシュエックス文庫発売しました! マンガUP!さんにてコミカライズも決定しました! 続報入り次第報告いたします!

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