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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アンデッドのタダ働き? 編

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102 過労死もできない会社

「アンデッドを使って奴隷労働をやってるんだよねー」

 えっ!?


 かなり意外な言葉が返ってきた。


「トルミー郡は沙漠が広がってて、不便だから土地もすごく安いんだよね。で、そこにとあるやり手の大物ネクロマンサーが目をつけたの。土地が安いところに大型工場を作って、いろんなところから若い死体を集めて、労働力としてこき使ってるの」


 ガーベラさんは、自分の足の鎖に自嘲的に視線を移した。


「ほら、こんな感じですぐには逃げられないように鎖でつないじゃうぐらいだから。無茶苦茶だよね……。せっかく、シャバに復活しても休日もない労働体制で楽しいことなんて何もなかったよ」


「いくらなんでもひどすぎますわ……」

 まだガーベラさんの話からは労働環境の全貌は明らかになってないけど、セルリアが厳しい顔をするのも当然だろう。歴史の本で読むような奴隷制じゃないか。


「そしたらさ、アンデッドたちでサボタージュしてやればいいんじゃないの?」

 メアリは普段が割とクールなんでわかりづらいけど、静かに憤ってるな。頬を指で軽くかいているのでそれがわかる。感情が揺れると、少しだけ動きが増える。

「みんなが働かなければ、そのネクロマンサーも利益は出せないでしょ?」


 けど、ガーベラさんは首を横に振る。


「ほんとに敵は大物ネクロマンサーだから、そんなことはできないよねー」

「もしかして、体を消滅させるぞとか脅してくるの?」

 アンデッドもガーベラさんを見る限り、意識はあるから、消えたくはないだろう。


「相手は紫魔法もものすごく調べててね、そういうやる気ないアンデッドには『労働こそ生きがい』って思わせる呪符を貼って洗脳しちゃうんだよねー」


 考えてた方向とは違うけど、ひどいっ!!!


「『労働こそ生きがい』って呪符を貼られた子たちは、ものすごくしんどいはずなのにずっと笑顔だったよ……。ああはなりたくなかった……。寒さも感じないのに寒気がしたよ……」


「たしかに紫魔法の効果って、黒魔法に近い部分があるんだよな。というか、黒魔法から派生して生まれたのが紫魔法って説もあったぐらいだったっけ……」


「ちなみに、ワタシの額についていたあの呪符は私語禁止の効力を持つもの。素行が悪いからって貼られてたよ」

 仕事中の雑談もさせないのかよ! ブラックすぎる!


「これがついてる間は助けを呼ぶこともできなかったんだよねー。それで、ふらつきながら、ここまで逃げてきたんだけど、さすがのアンデッドも力尽きちゃったわけ……」


 また、諦めたような薄笑みをガーベラさんは浮かべる。

 これは消耗しきって戦うことができなくなってしまった人がする表情だ。

 戦うことにも怒ることにも体力がいる。本当にボロボロになったらそれすら不可能になる。


 そして、最後に残された道が逃げることだったというわけだ。


「もう、自殺者が出そうな場所ですよね……」

「死のうって考えたことのない人はあそこに一人もいないと思うよ。ワタシも例に漏れずそうだしねー。でも、アンデッドだからすでに心臓動いてないんだよねー。死ねるわけないよねー」

 どこまでも詰んでる。


「アンデッドだから肉体的苦痛っていうのはないんだよ。痛覚もないしね。せいぜい、肉体を使ってるからダルさがあるぐらいで。ただ、仕事をし続けてると、何のために存在してるんだろうって虚無感にはとらわれちゃうんだ」


 俺もクソみたいな会社に就職したら、そういう気持ちになるんだろうか。

 どうやら、その会社では安かろう、悪かろうの様々な安物雑貨を作っているらしい。そして、小銅貨一枚でいろんなものを売っている小銅貨均一ショップに卸しているという。


 アンデッドたちは自分たちの作ってるものが質の悪い安物だと知ってて、誇りも持てないし、しかも無茶苦茶な環境だからいよいよいいものも作れない。悪循環は起きているけど、利益は出るので、この状況が続いている。


「このままいくと、心が完全に死んじゃうと思ったんだよねー。どれだけ働かされても、それを疑問に思わないような存在になっちゃう気がして。それだったら最後の望みで外に出ようって……」


「その選択肢、正解だから」


 俺は思わずガーベラさんのほうに手を伸ばした。


「こうやって、ガーベラさんはここまでたどりついた。必ず俺たちがなんとかしてみせる。絶対に見捨てたりはしない」


「アンデッドのワタシを助けてもお礼なんてできないよ……?」

「お礼ができるかどうかで助ける、助けないを決めたことはないから」


「そういうことですわ。ご主人様はとてもご立派な方ですもの」

 セルリアが誇らしげにそう言ってくれる。

「女性関係はちょっとだらしないけどね」

 メアリの言葉が耳に痛いな……。今回はかわいさに目がくらんだとかじゃないぞ。ガーベラさん、けっこうかわいいけど。


 怖々とだけど、ガーベラさんは俺の手を握った。


「ありがとね」


 やっと、素直に笑ってくれた気がした。


「でも、ワタシを匿ってて危うくなったら、その時は捨ててくれていいからねー。みんなにまで迷惑かけるのは申し訳ないから――」


 メアリがテーブルの上をふわっと飛んだ。

 そしてガーベラさんの前に来て、デコピンした。


「そういう自虐的なことを言うの禁止。それこそ、こっちも嫌な気持ちになるからね。だいたい、言わなくたって道の途中で行き倒れてる時点で十二分に迷惑だっての。何を今更気にしてるのさ。遅すぎる」


「あ……ごめん……」

 ガーベラさんが頭を下げた。


 とにかく、どんな強敵だろうと俺たちは戦うってことだ。


「さてと、今晩は何かガーベラさんを歓迎する料理を作りたいと思うのですが、何がありますでしょうか?」

「アンデッドなんで、何もいらないんだよねー。味もしないしねー。あっ、今のは自虐じゃないからね!?」


 アンデッドって想像以上にいろんなものが節約された存在なんだな……。


「まっ、みんなが作ってくれたものを食べるってことで。それと、ガーベラさんって言い方、落ち着かないし、呼び捨て&タメ口でお願いしていい?」

 全会一致でその申し出を俺たちは受け入れた。


「その代わり、こっちも呼び捨てでいいからな」

昨日、サイン本を編集部に行って書いてきました! (どこのお店に出回るかはわからない分なのですが……。ちなみにダッシュエックス文庫は新シリーズは100冊サイン本を作るのが恒例らしいです)

23日から発売になります!

あと、特典なんですが、かなりいろんな種類の店舗さんでやります。公式でまだ発表してないので店舗は書けないのですが、ケルケル社長の「会社員の人に贈る、ちょっといい言葉カード?」みたいなのが入ってます。)。特典SSみたいに店舗さんによってそれぞれ違うものになります。

是非、よろしくお願いします!

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