表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アンデッドのタダ働き? 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/337

101 顔色の悪いのはデフォかも

 人が倒れてるっ!?


「大丈夫ですか!」「大丈夫ですの?」

 俺とセルリアがあわてて駆け寄る。


 一方で、メアリは怖い目で周囲をきょろきょろ見回していた。メアリは刺客がまだ近くにいたりすることを警戒しているらしい。ちょうど役割分担ができていると言えるかもしれない。


 寒色系の髪をした若い女の子だ。髪の毛はボールみたいなのを作って左右に二つにまとめている。

 そんなものよりはるかに目立つ要素があった。


 抱き起こしてみると、そのおでこに呪符みたいなものがべたっとひっついているのだ。縦に細長い紙に呪文らしきものが書いてある。

「なんだ、これ? 魔法のアイテムか?」

「ご主人様、うかつに触らないほうがいいですわ。危険かもしれません!」


 セルリアに止められた。たしかにすでに非常事態なわけだし、何が起こるかわかったものじゃない。


「うぅ、うぐぅ……」

 まだ目は開かないままだけど、女の子がうなされているような声を出した。少なくとも生きてはいるらしい。まだ、これだけだと意識があるのか、悪夢を見ているのか判断できないが。


「いったい、何があった? 話せるようだったら教えてくれ!」


 その女の子の手がゆっくりとだけど、動く。

 そして、その手が呪符のほうを指差す。


「やっぱり、これか。これを取ればいいんだな」

 でも、俺の手はセルリアに止められる。


「ご主人様、危険すぎますわ……。いくら人助けのためとはいえ、ご主人様がひどい目に遭うかもしれないことを使い魔として容認することはできません……。出すぎた真似、どうかわかってくださいませ」

 その真剣な瞳に、俺の焦っていた心もすっと落ち着いた。


「そうだな。こういう時こそ冷静な対応をしないと……」

 すぐに社長を呼びに行くか。これが何かわかる人の判断を仰いだほうがいい。


「セルリアの判断で正しいよ」

 後ろからメアリがやってきた。

「この呪符は紫魔法で使っているものだね。無関係な人間が触ると火傷に近いような症状が出るよ」

「紫魔法ってことは精神支配に関するものか。レアな魔法だし、内容がいろいろとヤバいから授業でもほぼ習わなかったんだよな」


「そういうことだよ。もちろん、合法的な紫魔法の会社はあるけど、これを触ると危ないってことはたしかだよ」

 そう言いつつ、メアリは強引にその呪符を引っぺがした。


 瞬間、メアリの手に電流みたいなものが走った。


「とはいえ、わらわの力からしたら、蚊にかまれたもの程度のものでしかないけどね。むしろ、蚊のほうが安眠妨害してくるから圧倒的に脅威だよ」

「……魔法の才能とか関係なしに力技で解決したな。でも、ありがとな」


 これで倒れていた彼女にも何か変化が起きるだろうか。

 実は呪符で恐ろしいドラゴンでも封印していたとか、そんなオチでなければいいんだけど。


「た、助けて……」

 はっきりとその口は、そうつぶやいた。

 それから、瞳が開いた。大きなくまみたいなのができている。とにかく生気というものがない。顔もものすごく青白いし。


「もう、戻りたくないよぉ……」

 ここまで言われたら、やるべきことは決まっていた。


「セルリア、メアリ、この子を家に連れて帰っていいかな? 少なくとも、事情を聞かないと放り出すことなんてできない」

 答えは聞かなくてもわかっていたけど。


「もちろんですわ。行き倒れるだなんて相当なことですから」

「アリエノールの部屋が空いてて、ちょうどよかったじゃん。掃除の意味もあったよ」

 じゃあ、決まりだな。


「俺たちの家にまで来てもらうからね。事情は着いてから話してくれればけっこうだから。多分歩けないだろうし、俺がおんぶするよ」

「あ、ありがとう……」

 力なく、その子は言った。そして、おんぶしようとして、その子の足のとあるものに初めて気付いた。


 思いっきり左足にじゃらじゃらと鎖がついているのだ。さらに鎖の先端は引きちぎったようになっている。

 これって奴隷が逃亡したりしないようにするものじゃないのか?

 けど、奴隷制度も人身売買もとっくに法で禁止されている。となると、ガチガチの犯罪だ。


 もしかして、とんでもなく巨大な犯罪組織と対峙するようなことになるんだろうか。

 まあ、こっちの戦力からして、勝てる気もするけど。


「ごめんね。ワタシ、鎖までは取れなくて……」

 かついだその子の声は、申し訳なさのせいか、余計に弱々しく感じた。


「いや、いいよ。たいした重さじゃないしここから家までそこまでの距離じゃない。でも、この格好で王都から逃げたんだったら、もっと噂になるというか、警備兵から事情聴取ぐらいありそうなものだけど」

「あっ、ワタシ、むしろ王都に向かって逃げてきたから……。砂漠の施設から……」


 謎が多すぎるな。

「もしかして、これはわらわが暴れるチャンスなのかな~。フランツにいいところ見せちゃえるかな~」

 場をなごませるためなのか、冗談めかしてメアリが言った。



 家に着いたら、その子は自分の足で歩ける程度には回復していた。

 セルリアが出してくれた熱いお茶もごくごく飲んでいた。

「むしろ、それ、ふうふうせずに飲めますの……? あつあつでしたのですけど……」

 セルリアも意外だったらしい。猫舌の反対ということだろうか。


「あっ、ワタシ、死んでるんで、熱さとか寒さは感じないの」

 さらっと、その子は儚げな笑みを見せて言った。


「ワタシの名前はガーベラ。アンデッドなんだよねー」

 アンデッド、つまり動く死体か。まさに黒魔法の業界に関することだ。


 まず、こっちの自己紹介を簡単にしてから、彼女に尋ねた。


「ガーベラさん、君は自分からアンデッドになったクチ? それとも誰かにアンデッドにされたクチ?」

 アンデッドには高名な黒魔法使いが自分を死後も動けるようにしたケースもあれば、ネクロマンサーが死体を動かしたケースもある。なので、そう聞いたのだ。


「ワタシはまさにネクロマンサーに復活させられたクチだねー。それで、このネクロマンサーがとんでもなくひどい奴でねー」

 まさか、世界征服でも企んでるんじゃないだろうな……?


「アンデッドを使って奴隷労働をやってるんだよねー」

 えっ!?


活動報告のほうに文庫の口絵の集合イラストをアップしました! ぜひごらんください!

本は23日、ダッシュエックス文庫より発売になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ