リル14
ご主人様の部屋を後にしたら、なぜか部屋の前でシュリさんが待っていてくれました。
「シュリさん!!」
嬉しくて駆け寄りました。
「あなた!!変なことしなかったわよね!?」
・・・・どういう意味でしょう。
ちょっと下がったテンションのまま私は答えました。
「もちろんです・・・。きちんとご挨拶できましたよぉ!!」
もう、どこまでも心配症なんですね。
「・・・・ほ、本当かしら・・・・」
ぶつぶつ言いながらもシュリさんは仕事に戻るためご主人様の部屋を背に歩き始めたので、私も慌ててシュリさんの後について行きました。
すると、廊下を歩いていたシュリさんが急に思い出したように立ち止まりました。
「あ!そうだったわ!私と貴方明日はお休みだそうよ」
働いて1週間。
お休みはまだかまだかと思っていましたが、いきなり休日宣告とは!!
「本当ですか!?嬉しいです!!」
思わず飛び跳ねてしまいそうになりました。
やっと・・・やっと荷物が取りに行けます!!
この1週間メイド服だけで良かったですが、何もなさすぎて大変だったんですよ!!
「・・・あなた、休みだからって羽目を外し過ぎないようにね」
本当に心配症ですね!!
思わずそれを口にして、私はシュリさんから雷を頂きました・・・・・。
さて、待ちに待った休日です!!
え?早い?
・・・・何のことでしょう?ふ、ふふ~ん・・・。
と、とにかく、荷物をおかみさんのところに私は取りにやってきましたよ!
「おかみさ~ん!!」
果物屋が目に入ると私は大声を上げて駆け出していました。
その大声に気づいたおかみさんも私に手を振ってくれています。
「リル!おかえり!待ってたよ!!」
はぁぁ!!なんだか1週間だけですが、帰ってきたぁ!って感じです。
「ただいま帰りました!!・・・おかみさん、荷物すみませんでした」
「きにしなくてもいいんだよ。それよりも、仕事の方はどうだい?」
おかみさんは私を抱きしめてくれると、近況を聞いてこられました。
「はい!うまくやっていますよ!同僚の方がどうも色々心配してくださってますが、皆さん良くしてくれています!」
その言葉におかみさんはなぜかホッとした様な表情をされました。
・・・・安心させられたならよかったです!
「・・・あの、すみません。お会計をお願いします」
私たち2人の再会で気づきませんでしたが、お客さんがいたんですね!?
これは失礼しました。
おかみさんが、そのお客さんの会計の為に奥に入ってしまいました。
「・・・あなたがリルさん?」
はて?お客さんが私に話しかけてきましたが、一体どちら様でしょう?
しかも、私を知っているかんじですが・・・・。
「はい。えっと、あなたは・・・・?」
も、もしかして、お知り合いでしょうか!?
目の前のお客さんは、くすりと笑いました。
「あぁ。ごめんなさい。いつもお噂をきいていて、先程お名前が聞こえたものだから・・・・」
う、噂ですか?
一体、なんのお噂なのでしょう・・・・。
「私、今、候爵家のベネディクト様専属でメイドをしているマーサと言うの」
な、なんと!!候爵家のメイドさんでしたか!
「以前のベネディクト様の専属があなただときいていたものだから、ついお声をかけてしまったわ。あぁ、心配しないで?今は私が誠心誠意ベネディクト様に尽くしているから」
え、えっと・・・・。何なのでしょう?
つまり、ご主人・・・じゃなかったベネディクト変態候爵様の現在の専属メイドさんと言いたいのですね?
「そ、それは、それは・・・・」
なんて悲惨な方なのでしょう!!
おもわず涙目になってしまいます。
「あら?そんな悲しいお顔されなくても、あなたより私の方が彼にはふさわしいから大丈夫よ」
な、なんてことでしょう!!
この目の前の女性・・・マーサさんとおっしゃいましたか?ベネディクト様にふさわしいメイドさんとご自分からおっしゃられている!?
いいんです!いいんです!私にはわかります!
言わされているんですよね!?
私も言わされました!!
ご主人様は素敵だ!かっこいい、と言えと無言で圧力かけてくるんですよね!!
あの時の屈辱は忘れたくても忘れられません!!
思い出してしまうと、こみ上げてくる怒りで私は顔が真っ赤になっていたのかもしれません。
マーサさんは、微笑みながらおっしゃいましたから。
「そんなおさるさんみたいな顔して・・・・。ベネディクト様の事は安心して私にまかせて頂戴ね」
お、おさるさんですか・・・。
それはちょっと・・・・。
でも・・・っ。でもっ!なんていい人なんでしょう!!
ええ!全力であなたを応援します!!
そう言おうと思った私の言葉は口から出ることはなく、お会計をすませて、マーサさんは颯爽と去って行かれました。
・・・・とっても素敵なかたにお会いしました。
ほくほくとそんな気持ちで私はおかみさんの許しを得て、荷物を取りに部屋へと向かいました。




