リル13
「・・・・・っはぁ~・・・。あなた、本当に馬鹿ね?」
シュリさん、いきなりそれはひどいです。
先程の、おじさんの事を確かめてみましたところ、やはりこの家のご主人様。そうです。ジョナ男爵様でした。
初日にクレアさんと挨拶に伺ったのですが、急な来客だと断られ、後日伺う予定だったのに、すっかり忘れていました。
って、クレアさんなんで教えてくれないんですか!!
そう言うと、どうやらここ1週間クレアさんはご主人様のお使いで遠方に行かれているとか・・・・。
「どうして、すぐに言わなかったのよ!?私でも、誰でもいいから一言言えば、旦那様に紹介するのに!!」
いつもクールなシュリさんが熱くなってます!!
あぁ・・・これは、これで素敵です。
っと、それどころではありませんでしたね。
「・・・すみません、私もついうっかり忘れていまして・・・」
ほんと、ついうっかり・・・・。
「・・・はぁ・・・。貴方のうっかりは多過ぎるわ」
シュリさんは呆れたようにため息を着くと、何かを諦めたように首を横に振った。
「いいわ。とにかく旦那様に呼ばれているから部屋までは案内します。ただし、私は一緒にはいけないから、くれぐれも、くれぐれも!!粗相のないように気をつけるのよ」
・・・くれぐれも・・・を強調しすぎではありませんか?
もちろん、それくらい私にだってわかってますよ?
「はい、十分に気を付けます」
その言葉にもまだシュリさんは疑いの目を向けていましたが、ため息をつくと「ついてきて」と私をご主人様の部屋まで案内してくれました。
そして、現在ご主人様の部屋の前にいます。
「・・・いい?くれぐれもきをつけてね?」
・・・・もう、シュリさんもいい加減心配症ですね。
そんなに心配しなくてもうまくやってみせますとも!!
その意気込みをシュリさんに伝えるべくにっこり笑ったのですが、なぜでしょう?
その眉を寄せて困った・・・・みたいな顔をされました。
ま、まぁ、とにかく、私は行きますよ!!
重厚な扉に手をかけノックをすれば中から返事がありました。
「失礼します。先程、廊下ですれ違いましたメイドのリールと申します」
そう言うと、中からご主人様であろうお声で
「・・・・入れ」
と、お返事が帰ってきました。
ちらり、とシュリさんを振り返り行ってきますの合図を込めて手を振り、私はその部屋の中へと入っていきました。
「・・・ご挨拶が遅れて誠に申し訳ありません。先日より、こちらでメイドとして働かせていただく事になりました、リール・グランダでございます。ご主人様のお役に立てるよう努力致しますので宜しくお願い致します」
うん!完璧な挨拶ですね。
叔母直伝の淑女のお辞儀をしたところで、頭の上よりご主人様のお声がかかりました。
「顔を上げなさい」
言われた通り顔を上げたら、やはりそこには先程お会いした新しい主のジョナ男爵様が机に付いてなにやらお仕事をされていたご様子でした。
「・・・君がリール・グランダか。あの候爵家からやってきた・・・・」
どうして、候爵家から来たことを知っているのでしょう?
あぁ!契約書を拝見されたのですね?
「はい、以前の候爵家ではメイドの基礎を学んできましたのでこちらでも必ずお役に立てると思います」
え?また、嘘だと?
・・・何をおっしゃっているのですか?新しいご主人様には好印象を与えておくのが当たり前ではありませんか。
だって、この人は以前の給金の倍を払ってくれるご主人様なんですからね!!
「・・・そうか、それは頼もしいな。それより、聞きたいことが2・3あるのだがいいかね?」
はて、聞きたいこととは一体なんなのでしょう?
候爵家での仕事内容とかでしょうか?
「はい、構いませんが・・・」
「ふむ、ではまず君の得意な事はなんだい?」
はい?得意な事?一体なんのことでしょう?やはり、仕事内容のことでしょうか?
「はい、私窓ふきは誰よりも綺麗に仕上げる事ができる自信がございます」
何度、叔母に罰として窓ふきをさせられたことだろう。
うぅ・・・おかげで窓ふきは本当に誰にも負けないくらいぴかぴかに磨けますよ!!
「・・・・・・ま、窓ふき・・・・。し、質問が悪かった。き、君の趣味は何かね?」
趣味ですか?それは仕事に何か関係があるのでしょうか?
・・・あぁ!そうか、住み込みとして迷惑になるようなことをしないかどうか確かめていらっしゃるのですね?
「趣味は昼寝です!」
どうです!これならお休みの日も静かにしてますから、ご迷惑はおかけしませんよ。
「・・・・・昼寝・・・・昼寝・・・・」
はて?頭を抱えてしまわれましたが、どうされたのでしょう?
何かまずいことを言ってしまいましたでしょうか?
「・・・わ、わかった。もうよいぞ。仕事に戻ってくれ・・・」
なぜでしょう?力尽きたようにそう言われましたが、私、メイドとしては完璧ですよね!?




