ベネディクト12
書類を睨んでいると、頭の上からレイチェルの声が聞こえてきた。
「何か用だったか?」
ちらっとレイを見やれば、目の端に動くメイドの姿が視界に入った。
「・・・おい。お前は席をはずせ」
メイドを見て言ったはずなのに、当のメイドはまったく聞いていない振りをした。
ちっ・・・。
思わず舌打ちをしてしまったら、レイに困ったように笑われた。
「マーサ。悪いんだけど、これから大事な話をするから少し外に出ててくれないかな?」
「はい。かしこまりました」
・・・・なぜ、レイチェルの言う事ならすぐに聞くんだ。
お前は私の専属メイドではなかったのか?!
「はいはい、睨まなくていいから。・・・・例の件で呼んだんでしょ?」
お茶らけた雰囲気から一転、私たちは真面目な顔になった。
「あぁ・・・。あれ以来動向はつかめているのか?」
「いや、さっぱりだね。本当に俺たちを嘲笑っているかのように見つけたと思ったら痕跡もなく消え去ってるよ」
レイの言葉に思わずため息が零れる。
全く、どうしてこうなった。
「・・・せめて奴らの目的さえはっきりすればな・・・・」
目の前には同じ事を思っていたのか、頷くレイが視界に入った。
「他の領地でも同じようなものだったらしいよ。奴らの行き先を見つけたかと思えばそこはもぬけの殻。そして、人知れず人買いが行われていた」
「人知れず・・・・?」
人を売り買いするのであればわかるだろう・・・。
「そう。人知れずさ。ある時、ふと気づけばメイドが増えていた。とか、ふと気づけば自分の娘がいなかったとか・・。とにかく、気づくのは3・4日も後になってから。なぜ、そんな事になるのかと俺の方で調査してみた」
レイの言葉に思わず眉間に皺がよる。
人が増えたり減ったりする事になぜそんなに日がかかるのかまったくもって不思議でならない。
「それで?」
「うん、それで、調査した結果がこれだよ」
そういうと、レイはポンと書類を机の上に投げた。
私はそれを拾い上げると、目を通した。
「まったく、どこで情報を調達しているのかも謎だよ」
報告書と書かれた書類には、レイが調べた事柄がつらつらと書かれていた。
まず、第一に人が増える所は決まって、メイド管理がずさんな所。
雇用契約も適当に当主がメイドの人数を把握していないのはもちろん、扱いがひどい。
また、当主は皆揃って、人を買った事はないと言っている模様。
ならば誰が人を買っているのか??その謎は現在調査中。
第二に人がいなくなる所は、貴族のご令嬢から平民まで幅広い。
それも、子の人数が多いところで、すべてが物静かで存在が薄い子が対象となっている模様。
そして、親兄妹が金品を受け取った訳ではなく、気づけば子供が足りないと慌てて役所へ駈け込んでいる。
では、連れ去られているのか??その謎も現在調査中。
「・・・これだけか?」
書類に書かれている内容はそれだけだった。
「これだけとかひどいよね。これでも、苦労してこの情報を集めたんだよ?わざわざ他の領地まで足を運んだのに・・・」
と、目の前で実の弟に頬を膨らませても全く可愛いとも思えず、さらに眉間に皺が増えるだけだ。
「ほぼ、謎なままではないか」
これでは、まったく奴らの目的がわからないどころか、更に謎が謎を呼ぶだけだ。
「そう。全てが謎なんだよ。何を考えているのかまったくわからない」
まるで、お手上げだとでもいう様にレイは両手を上げた。
まったく、頭の痛くなる話だ。
リルも傍にいないのに、こんな厄介な問題を抱えなければいけないなんて・・・。
私は深いため息をつくと、今後の対策について頭をフル回転させた。




