メイド マーサ1
「いつもいつも、リル!リル!って!!いい加減にしてほしいわ!!目の前にもっと素敵な女性がいるってなんで気付かないのかしら!!」
新しくご主人となったベネディクトに言われ、彼の弟レイチェル様を呼びに行く途中、私は誰もいないのを確認してそう叫んだ。
・・・改めて、私、マーサはご主人ベネディクトを狙っている。
もちろん、男としてこれ以上イイ男はいない。
もともと、私は貴族のはしくれではあったが、令嬢として幼いころ育てられた。
しかし、馬鹿な父の不正が暴かれ私の家は爵位の剥奪、平民として辺鄙な場所に飛ばされた。
「あのくそ親父の所為で私たちがどれだけ苦労したか!!」
思い出すだけでも腹立たしい!!
それまで、いくらはしくれとはいえ貴族。ちやほやしていた商人は家が取り潰しと知るやいなや波が引くように去っていき、私のこの美しさにくっつきまわっていた男どもも姿形すら現さなくなった。
その代わりに、私の容姿を気に行っていた狸親父どもから妾や愛人にならないかと舌なめずりして寄ってくるようになった。
それらを、何とかかわしながら、私は成人したと同時に家を出てこの町にやってきた。
過去は全て隠して。
そして、見つけた最初の仕事はメイドなんて高貴なものではなくただの下っ端皿洗い。
おかげで16で手は荒れ放題。そこでも、この容姿で同じ下っ端からいじめられすぐにそこをやめた。
次に見つけた仕事は皿洗いよりはましな下女。つまり、主人の前に姿を現す事のなく家の仕事をするもの。
主人の前に姿を現さない様にしても、やはり同じ家の中で働いていると、たびたび鉢合わせしてしまう事もある。そんな時、主人達は私たちはいないものとして扱うが、そこのバカ息子が私を見染め、私を無理やり部屋へ引っ張り込もうとしているのをメイド頭に見つかり、私はクビ。
一体、私が何をしたと言うのか!?
その後、仕事をしなくても、この容姿によってくる男どもから金を巻き上げ巻き上げ何とか暮らしてきた。
そろそろ、こんな事するのもバカバカしいな、と思っていた所、侯爵家でメイド募集のチラシを発見した。
ただし、男爵家以上の紹介状が必要と・・・・。
そんなもの、私にあるわけもなく・・・。しかし、貢がせていた男の中に確か子爵の息子がいた。その男を上手く丸め込み、紹介状を書かせ、やっとの想いでこの仕事にありつけたのだ。
「来てみれば、噂にたがわないいい男が居るし?」
にやりと笑うと舌で唇を濡らした。
今度こそ、うまくやってやる。
そう、ここの候爵と結婚して私は候爵夫人となるのだ。
それなのに・・・・・・。
「リル、リルって・・・!!」
写真で一度見たが大した事のない女だ。容姿では明らかに私の方が勝っている。
仕事だって他のメイドから聞けばドジばかりで役に立たなかったとか。
そんな女に負けるなんて、私のプライドが許さない。
「・・・・今に見てなさい。必ず、私のモノにしてみせるんだから」




