ベネディクト11
「ぅぅぅ・・・・・・」
「うっとうしいです!!」
手には既に何度も何度も、何十回も、何百回も読み返したリルからの手紙が握られている。
この、可愛らしい字!!この可愛らしい真っ黒なキャラクター!!この可愛らしい皺の後!!
全てが私の為に必死で書いたかと思うと涙を流さずにはいられない。
「・・・変態ですか・・・・」
何と言われようとリルからの手紙は一生の宝だ!家宝だ!!
あぁ・・・リル。私も頑張っているよ!
私の姿を思い出しながらリルも仕事を頑張っているんだね?可愛い事をっ!!!
「・・・よだれが垂れています。ご主人様」
あぁ!危ない!!可愛いリルからの手紙によだれなど!!
「ったく・・・」
ふと、手元にあった可愛いリルからの手紙が消えた。
「これは預からせていただきます!!」
そこには、いつの間にいたのか、あのクソ生意気なメイドがリルの手紙を持って立っていた。
「・・・返せ。この場で殺されたいのか?」
「凄んでもだめです。レイチェル様から許可は取ってあります。仕事をなさらないようだと手紙を取り上げろと」
く、レイチェルめ。いつの間にこのメイドと手を組んだんだ。
「大体、こんな間違えだらけの手紙のどこがいいんですか?字は滲んでるし、所々には手紙を握りしめた様な後もあるし・・・・」
「うるさい!!リルからの手紙を粗末に扱ってみろ、いくらレイチェルが味方にいようとお前などどうにでもできるのだからな!!」
全く、この生意気なメイドは本当にどうにかならないものだろうか。
事もあろうに、リルからの手紙にケチをつけるなど、今この場で手を掛けなかった事を誉めてもらいたいくらいだ!
「・・・わかりましたよ。とにかく、レイチェル様から言付かってます。さっさと仕事をしろ!!との事ですよ」
生意気なメイドの言う事を聞く訳ではないが、私は椅子に腰かけ仕事を始めた。
先日の様に仕事をためる事無く1日1日来る案件に対応している。
ただ・・・ひとつ問題なのが、例の人買いの集団の事だった。
我が領域に入った時点で見張りを着けたのだが、それに気づかれ巻かれてしまったと言う。
今、総力を挙げ探させているが、どうにも私の情報網に引っかからない。
まるで、全て先を読まれているかのように奴らがいなくなった後を探している状態だ。
今の所、人買いに人を売っただの買っただのはないし、いなくなったなどもない。
それだけが唯一の救いだが、奴らがこの土地に入った目的や行き先がわからない分気が抜けない状態だ。
「・・・・まったく・・・。なぜ私の代でこんな事が起こる・・・・」
これまで、平和そのものの我が領地にこの様な事が起こったのは、数十年ぶりで民達はすでに平和ボケしている。
危険を知らせるもどうにも、本気にとっていないようで危機感がなさすぎるのも頭を抱える問題の一つだった。
「・・・・・お疲れのようでしたら、少し横になられたらどうですか?・・・マッサージでもしますよ?」
私の様子を見てか、傍で掃除をしていたクソ生意気メイドがそう言った。
「・・・だったら、リルからの手紙を返してくれれば十分だ」
その言葉は見事に無視され、掃除を続けていた。
思わず舌打ちしたくなるのを我慢し、そのメイドに、レイチェルを呼びに行かせた。




