レイチェル1
あぁ。まったく兄ににも困ったものだ。
「レイさまぁ・・・。どうなさったのぉ?」
甘く囁くように私の耳元に息を吹きかけてくる女の肩を抱きながら私は女に視線をやる。
「いいやぁ?なんでもない」
そう言って、女のやわ肌を私は撫でまわす。
「リール嬢。そこ、間違っている。『貴方様を想うと夜も眠れません』がなぜ『貴方様の睨みを想うと』になるんだ」
まったく、兄もどうしてリール嬢に嫌われている事に気づかないのか。
「あっ・・・・」
いや、今気づいたのか。というか、どうやったらそんな間違いが出来るんだ?
深いため息をつくとちらりとリール嬢が俺を見上げてきた。
「・・・・なんだ?」
何かを言いたそうな顔をしておきながら何も言わないとは一体何なんだ?
全くイライラする。
おもえば、屋敷にいた時からこいつはそうだった。
仕事はほとんど兄のベネディクトについていたが、たまに物を頼めばまるで喋っているかのようにその感情が表情に出る。
「『なんで私がこんなものを書かなければいけないのか?』そう言いたいのだろう?」
そう言い当ててやると目が落ちんばかりに見開かれる。
本当に・・・。
「お前は感情を隠すという事を覚えろ。・・・それは、兄への手紙だ。兄に渡すものだから間違えたら大変な事になるぞ?」
そう脅してみれば、リール嬢は慌てて手紙を読み返している。
・・・どんだけ、間違えているんだ?
と思うほど、手紙を書きなおす回数が多い。
俺は再び深いため息をつく。
なにせ、2人の想いはまるで正反対なのだ。
もちろん、周りの者はそれを知っているが誰一人として止めようとしない。
ベネディクトに嫁が来る事は俺だって望んでいる。
しかし、この娘で本当にいいのだろうか?
下手したら本当に侯爵の位をなげうってこの娘にのめり込みそうになる兄を心配せずにはいられない。
・・・もちろん、そんな事になったら俺が迷惑を被る為に心配しているのだが・・・・。
「・・・で、できました・・・」
ふと、一人己の考えに浸っていた所をリール嬢に邪魔され思わず睨みつけてしまった。
「・・・・・・馬鹿か」
一通り目を通した手紙は、ありえないくらい黒く塗りつぶされている部分が多い。
いや、もはや文字を探し出す事が難しい。
「はぁ~・・・。言われた通りに書けと言っただけなのだが。それも出来ないのか?」
どうも、この娘は自分の想いに忠実・・・いや、もうこれは恨みでしかないのでは・・・。
こんな手紙渡せやしない。
「もう一度書きなおしだ。いいか?私の言う言葉を一字一句間違えるな。そして、余計なことを書き足すな!」
そう言いつけると、リール嬢は再び涙目でペンをとり書きなおし始めた。




