ベネディクト9
「ご主人様!そんな不摂生はなりません!!」
ごろりと長椅子に横たわって寝ていたら口うるさいものが私を起こす。
「・・・うるさい」
昨日、紹介されたばかりの新しいメイドが私の周りをうろちょろし始めた。
いや、それだけではなく私に対して口うるさい。
リルとはまったく正反対の輩だ。
背は高いし、目はきつい。事もあろうにこの私を長椅子から引きずり下ろすとは!!
「痛いではないか!!何をする!!」
「では、こんなところで寝られないでください。あちらに立派なベットがございます。それともなんですか?あのベットは飾り物ですか!?」
「そんなわけないだろう!!しかし、仕事が山の様に積みあがっているのが見てわからないのか!?これを片付けなければリルへ会いにいけないではないか!」
「それならばなおの事、しっかりお休みになって効率よくお仕事をされて下さい。リルさんと言われる方がどんな方か存じ上げませんが、その様な寝不足のお顔で会いに行かれてもよろしいのですか!?」
むむむ・・・。彼女の言う事に思わずグッと詰まってしまった。
た、たしかに、この様な無精ひげを蓄え、血の気が引いた様な顔をリルに見せるわけにはいかない・・・。
「・・・わかった。今度からはちゃんとベットで横になろう」
今回は彼女の言う事が正しいと思いそう言うと彼女は驚いたような顔をした。
「え、えぇ。そうなさってください。では、私はお部屋の掃除をいたしますので、ご主人様はどうぞ、朝食をお取りに行かれてくださいませ」
驚いた顔は一瞬できえ、いつもの生意気な表情にもどるとさっさと掃除道具をだし部屋を掃除し始めた。
追い出された感が満載だったが、私はしぶしぶ食堂へと赴いた。
食堂へ顔を出すとそこにはメイド頭を始め数人のメイドが朝の準備をしていた。
「・・・おい」
他のメイドに指示を出していたメイド頭を呼びとめ私は今朝の出来事を話した。
「・・・私に専属のメイドなどリル以外ではいらん。いますぐアイツを私専属からはずせ」
毎日あのように口うるさく言われたのではたまったものではない。
「ベネディクト様。リル以外とおっしゃられても、リルは妻とされるのでしょう?でしたら、リルが今後ベネディクト様専属のメイドとなる事はありません。ですから、身の回りのお世話をするものがリル以外で必要だと思い、あの者をつけたのです。まだ、ベネディクト様専属となって日も浅いので身の回りの様子がわからないのでしょう。どうぞ、もう少し長い目で見守っていただけませんでしょうか?」
メイド頭の言葉に頭を抱えるが、どちらにしても誰かつけるのであればもっと大人しい方がいい。
そう言ったのに、メイド頭は
「生憎、他の者はすべて自分の持ち場で手いっぱいの為、ベネディクト様のお世話を出来るものは下りません」
などとぬかした。
そして、私が唸っている内にメイド頭はさっさと自分の仕事へ戻ってしまった為、結局メイドが変わる事はなかった。
しぶしぶ、席につき朝食の卵を割って焼いたものを見ているとリルの顔が浮かんだ。
「・・・リル。あぁ・・・お前のドジが懐かしい・・・・」
その言葉に私の周りにいたものが肩を震わせていた事に私は気付かなかった。




