リル9
今、目の前には男爵家のメイド頭が座っていらっしゃいます。
「・・・リール・グランダ。ふーん、以前はマルサス侯爵家でメイドをしていたの。なぜ、侯爵家をやめたの?」
その問いに思わずドキリとしました。
が、大丈夫です!その答えはばっちりです!
「はい。侯爵家では、私の叔母がメイド頭をしておりましたが、やはり身内の傍にいれば甘えが出てしまうと思い、自立の為、前職を辞めさせていただきました」
どうです!素晴らしいでしょう!?
え?嘘?・・・何をおっしゃいます。どこの世界に馬鹿正直に追い出されたっていう人がいるんですか?
「・・・ほう、ではあなたのわがままで職を辞めたと?」
え!?あ・・・。とらえようによってはそうなりますね・・・。
う、うーん。困りました。
「・・・そうですね。そう取られても仕方ないと思います。しかし、侯爵家で鍛えられた腕は確かです。こちらに雇って頂けたらそれは十分発揮できると思います!」
え?また嘘?ドジばかりじゃないかって?
・・・だから、どこの世界に私、ドジばかりしますって言う人がいるんですか?
「・・・わかりました。前職は侯爵家と言う事ですし、身元も確かでしょう。マルサス侯爵家といえばあなたの叔母、エレナ・グランダというメイドの鬼と呼ばれるメイド頭がいる事で有名ですし、あなたを信じてみましょう。早速明日からこちらで働けますか?」
「はい!」
思い切り首を縦に振り私は頷いた。
・・・って、おばさん。メイドの鬼って言われてたんですか?
知りませんでしたよ。
「じゃぁ、明日からよろしくね。私はメイド頭のクレアよ」
そう言って差し出された手を握り返すとにっこりと笑って下さいました。
・・・年は一体おいくつなんでしょう。
妖艶な笑みで笑われた私はちょっと胸がドキドキしてしまいました。
「・・・宜しくお願いします(照)」
と、言う事で無事私の再就職先はきまりました!
はい?嘘ばかりついて手に入れた仕事で大丈夫なのかって?
ボロが出ないのかって?
・・・・以前にも申し上げましたが、雇用契約っていいですよね。うふふ。
さて、早速返っておかみさんに報告しなければいけませんね。
そして、こちらでも住み込みで働けることとなりましたので、荷物もまとめなければいけません。
あぁ、嬉しい忙しさです。
そそくさと、男爵家を後にして私は店へと向かいました。
しかし、店の近くまで来ると、見覚えのある馬車が店の前に止まっているじゃありませんか。
なんだか、私の浮かれた心が風船の様に空気が抜けて行くのは気のせいでしょうか?
そろりそろりと店の裏に回ると、気づかれないようそっと裏口の扉を開けました。
「お帰り、リール嬢」
・・・・何も扉を開けたすぐ前で待っていなくてもいいんじゃないでしょうか・・・・・。
「・・・・レイチェル様・・・・・」
「はは、ひどいな。表に馬車があったのは知っていただろう?なぜ裏口から入ったりするんだい?」
え、笑顔がとびきり怖いです。
ええ、貴方もマルサス家の一員ですね。綺麗なお顔にそのような笑顔を張り付けられても、怖さはかわりませんよ。
「も、申し訳ありません。き、きづ・・・」
「気づいていただろう?」
くっ。言葉を被せられた。しかも、何を言うかわかっていたのか。
「・・・・はい、気づいていました」
もう、観念しますよ。気づいてて逃げましたよ。だって、マルサス家の人間って怖いんだもん!!!
「うん。正直なのはいいことだ。でも、気づいていて挨拶もなしとは酷いと思わないかい?」
あぁ、はじまりました。レイチェル様の口上に勝てる人なんていませんよ。
「とても、酷い事だと思います。申し訳ありません。許して下さい。ごめんなさい」
ひたすら謝るが勝ちです。
「・・・うん、許してあげよう。そのかわり今から僕が言う事を一言も漏らさず紙に書いてもらうからね?」
レイチェル様の言葉に顔を上げて首をかしげて見れば、なんという事でしょう。
悪魔の笑みでそこに立っているではありませんか。
はい、私の人生終了フラグ立ちましたー!
みなさん、短い間でしたがお世話になりました。
・・・本当にお話が終わるわけではありませんよ?




