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プロローグ 婚約破棄を言い渡されてございまする

舞姫(まいひめ)、そなたとの婚約はなかったものとさせてもらう」


 舞姫の婚約者、下松真兼(しもまつまさかね)は居丈高に言い放った。


「承りました」

 

 畳に三つ指をついて、彼女はこたえる。

 数えで18になる舞姫は、ここ下ノ方(しものかた)の大名の娘だ。

 城を訪れた婚約者に、とつぜん婚約破棄を突き付けられたばかりであるというのに、彼女の声音には、微塵も動揺の気配はうかがえなかった。

 

「理由は聞かぬのか?」

「無用にございまする」

「チッ……つまらぬ女よ」


 吐き捨てるような言葉を浴びせられても、やはり舞姫は一切の感情をしめさない。


 ――意地の悪いこの男のことだ、こちらの泣き喚く姿でも見たかったのだろうが、あいにく自分も武士の娘。この程度のことで感情が揺らぐようでは、戦国の世の姫君などつとまらぬ。


「まあよい。特別に教えてしんぜよう」


 舞姫はゆっくり(おもて)を上げた。


 いま彼女がいるのは、下ノ方城の大広間だ。


 眼前に胡坐をかいているのは、許嫁――いや元許嫁の下松真兼である。

 脇息に頬杖をつき、見下したような眼差しを彼女へ注いでいる。


 いつもながら、上座にいる舞姫の父より偉そうな態度だ。

 大名である父上の方が立場が上だし、その長女たる彼女にも、本来ならばこのような横柄な物言いは許されないはずであるのだが……。

 

「実は、わしにもっとふさわしい嫁が見つかってのう」


 彼は、端正ながら野性味のある顔立ちをにやりと底意地悪くゆがめた。


 その言葉に、真兼に寄り添っていた女が、さらに彼に身を摺り寄せる。


 少し癖のある髪とクルミのような瞳。

 どこか男の庇護欲を掻き立てるこの娘は、舞姫の腹違いの妹君、椿姫(つばきひめ)であった。


「この椿姫の方が器量も愛嬌もおぬしより遥かに上じゃでなぁ」

「まあ若。姉上にお悪うございますわ」


 真兼にしなだれかかり、困り顔をする彼女。

 口ぶりこそすまなそうだが、舞姫に向ける眼差しには明確なざまあみろ感が浮かんでいた。


「という次第なので、一つそのように取り計らっていただきたい。よろしいかな、下ノ方守(しものかたもり)殿?」


 真兼は、ついでのように彼女の父にうかがう。

 対して、城主は一言、こう応えただけだった。


「めでたい」


 ふん、と鼻を鳴らす真兼。

 こんな横暴が許されるのも、ひとえに彼が武勇の誉れ高い隣国上ノ方(かみのかた)の大名の嫡男であるがゆえだ。


「用向きはそれだけじゃ。もう下がってよいぞ」


 真兼は舞姫に手をひらひらさせるが、その時、椿姫がどこかいたずらっぽい声で彼に耳打ちした。


「若、例の件をお伝えしませんと」

「ああ、そうそう、そなたの新たな輿入れ先を伝え忘れておったわ。弟の影雪(かげゆき)が嫁探しに難儀しておってのう。わしの父上にそなたのことを申し上げたら、二つ返事でお決めになられたわ」


 ――――え?


 表情に出すのは堪えたものの、さすがに内心驚いた舞姫は、ちらりと上座に視線を飛ばす。

 

 父は無言で目を伏せた。

 

 舞姫は元婚約者の発言が事実であると理解した。


「ほんに今日はめでたいのぅ。二つも輿入れが決まってのぅ。これでこの国も安泰じゃのぅ~」

「まったくにござりますわぁ」

「まあ、国一番の鼻つまみ者と陰口を叩かれておる弟じゃが、一つよろしゅう頼むわ(笑)」

「姉上、どうか末永くお幸せに」


 にやにや笑う真兼と心底愉快そうに見下した表情を浮かべる妹を前に、舞姫は再び三つ指をついて平伏すると、最後まで表情一つ変えず大広間を辞したのであった。

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