第53話 王国コンテスト
ついに当日を迎えてしまった。
コンテスト参加者には仮設の工房を使える権利が与えられている。
だが、そこで剣を鍛えているのは……僕だけだ。
皆、すでに自信のある武具を準備している。
当日まで粘っているのは、余程のバカなのだろう。
「すみません。そろそろエントリーをして頂かないと……」
「もうちょっと……もうちょっとで終わりますから」
僕は最後の『研磨』をかけていた……。
これでダメなら……。
最後に『鑑定』を……。
あっ……。
「これですよね? すぐにエントリーをしますから! 持っていきます」
持って行かれてしまった。
だけど、最高の作品に仕上がったはずだ。
僕が出来るすべてをぶつけた……。
「ライル?」
「フェリシラ様! ずっと、ここに?」
背後から声を掛けられて、驚いてしまった。
まさか、ずっといたとは。
「私にはここで静かにライルを応援することしか出来ませんから」
フェリシラ様……。
「ありがとうございます。おかげで、いい作品が出来ました。あれなら……」
きっとベイドの作品ともいい勝負が出来るはずだ。
そして、このコンテストで入賞する。
そうすれば……僕は一人前の鍛冶師として認められるんだ。
「すぐにコンテストが始まるみたいですよ。行きましょうか」
「はい」
フェリシラ様は僕の手をとって、歩き始めた。
なんだか、これも自然な動作になってきたよな。
「おい! お前!!」
なんだ、こんな時に……。
僕はとても幸せな気分に……。
「なんですか?」
……誰だ、こいつは。
醜く太った奴だ。
それに横にいる……ブスはなんだ?
随分と仲良さげに腕なんて組んで……。
「レイモンド……殿下」
フェリシラ様?
「また、ブスになったな。フェリシラ。折角、美人になる毒を飲ませてやったのに。運のない奴だ」
……!!
こいつは……第二王子。
なぜ、ここに。
デルバート様に捕まっていたんじゃ。
というか、フェリシラ様をブス呼ばわり、だと?
それだけで万死に値する。
だが……。
相手は王族……。
「おい、庶民。貴様がライルか?」
どうして、僕の名を?
「はい」
「ふん! いいか? てめぇを絶対に入賞なんてさせてやるか。徹底的に妨害してやる」
……こいつからはベイド臭がする。
クソ野郎の臭いだ。
「……」
「ビビって、声も出ねぇか? つまんねぇ。おい、ブス。自分の顔が嫌になったら、いつでも言えよ。薬をくれてやるからな。俺って優しいだろ?」
最低な野郎だ。
こんなヤツにフェリシラ様が苦しめられていたなんて……。
なんだか、分かるよ。
デルバート様の気持ちが……。
「分かりました。だけど、僕の武具はそう簡単に負けませんよ」
「ぬかせ!! どうせ、入賞するかどうかだろ? 簡単に決まっている。じゃあ、な」
こいつを殴るのは簡単だ。
だが、この決着はコンテストで……。
「フェリシラ様」
「……」
……?
「プッ! なに、あれ? 豚じゃない!」
……フェリシラ様?
「なんで、あんなやつと結婚しようと思ったのかしら? 謎よね?」
えっと……。
「落ち込んでいないんですか? 怖くは……なかったですか?」
「全然。むしろ、会えたことでスッキリしました。ねぇ、ライル?」
フェリシラ様の上目遣い……。
アリーシャ以上の破壊力だ。
「はい……なんでしょう?」
「絶対に、勝ってね」
「も、もちろんですよ」
「嬉しい!!」
えっと……これはどう言う状況なんだ?
こんな距離で見つめ合うってことは……。
いいのかな?
僕はゆっくりと顔を近づけた……
「ダメよ。これは入賞してから……ね?」
絶対に入賞してやるぅぅぅぅ!
……。
「これよりコンテストを開催します。本日の主催はレイモンド=ライゼファ殿下です。なお、審査委員長にはウォーカー男爵を招いております!」
まさか、父上まで……。
僕の剣が評価される……。
でも、大丈夫だ。
僕はやれることをやったんだ。
会場には大勢の職人が並び、一同が司会役の人を見つめていた。
レイモンドと父上は簡単な挨拶だけを言うだけだった。
「それでは開始します! まずは品評会を開催します。ここで10組の武具が選ばれます」
いきなり、すごい数が減らされるんだな。
周囲からはどよめきが走った。
……。
「よお」
……誰だ?
「はぁ」
「なんだ、その気にない返事は。俺が分からないのか?」
……全く。
でも、声に聞き覚えが……。
「まさか、ベイドか?」
信じられない。
メレデルク工房の修行が大変だとは聞いていたが……。
ここまで顔が変わってしまうとは。
もはや別人のレベル……顔が腫れ上がり、生傷も多い。
まるで誰かに殴られたような……。
ここまでの修行を積んできたということか……。
ちょっと、尊敬だな。
「へへへっ。今回は俺が優勝させてもらうぜ」
随分な自信だな。
メレデルク工房で何かを得たのか?
こいつのことは嫌いだが、技術には興味がある。
「ああ、僕も負けないさ」
これで全てが揃った。




