第42話 静かに忍び寄る悪意
透視メガネは封印することにした。
あまりにも危険すぎるアイテムになってしまったから。
これを付けて、街を歩けば一瞬で卒倒してしまうだろう。
ましてや、横を歩くイディア様を再び見たら……。
「ライル殿。顔が赤いようだが? 大丈夫なのか?」
とても言えない。
貴方の裸を見て興奮したとは……。
「いえ。でも、ありがとうございました。剣も手に入れられましたし。これでダンジョンで試し切りもできそうです」
「それは良かった。私も案内した甲斐があったというものだ」
それから工房見学に行こうとした。
「ダメだと言っているだろ」
「そんなぁぁぁぁ!」
工房見学のコンプリートはまだまだ先のようです。
……。
「あれ? ライル君! 久しぶりねぇ」
……この人は……。
「マリアさん! お久しぶりです。まだ、この街に?」
「当たり前よ。ダンジョン攻略しているんだもん。あと一年はいるつもりよ」
へぇ、そういうものなのか。
一度でダンジョンを踏破する……なんていうのは、物語の世界の話か。
「じゃあ」
特に話すこともないしな……。
それにこの人……ベイドの婚約者だし。
あまり仲良くなりたくない。
「ちょっと、待ってよ。久しぶりの再会なのよ? 一緒に飲みましょうよ。そこの女戦士さんも」
イディア様を知らない?
魔女護衛役……というか領主の門番なのに?
この街では結構、有名人だと思っていたんだけど。
「その顔はなんですか。私は館からほとんど出ませんから。特に冒険者は知らない方を多いんです」
僕は何も言っていないんだけど……。
「あの、申し訳ありませんが、急いでいるんで……」
「チッ!!」
舌打ち?
前にもあったな……。
この人の癖なのかな?
「ライル君は今回は何しに来たの?」
「えっと……ちょっとダンジョンに入ってみようと思って」
なんだろう……。
めちゃめちゃ食いつかれたぞ。
「本当!? 嬉しい!! じゃあ、明日8時に集合ってことで」
ん?
何を言っているんだ?
「ちょっと、待って下さいよ。どういう事ですか? 8時って」
「私が案内してあげるって言っているのよ。それくらい、察しなさいよ。あとお姫様も一緒にね」
……。
「よろしいのでは? 私はただの護衛ですから。お好きに」
どうしよう……。
今回のメンバーを考えると、戦い慣れをしているのはきっと、イディア様だけだ。
フェリシラ様もアリーシャも能力は高いと思うが、戦闘経験は乏しい。
僕は……まぁ、論外だな。
剣も扱えないし、魔法も使えない。
体技もないな。
強いて言うなら、鍛冶仕事で鍛えた肉体だけだな……。
よし!
「お願いします!!」
「いい返事ね。とっても……とっても楽しみにしているわね」
なんともゾクッとした言い方だったが……。
これで一安心かな。
数カ月もダンジョンに潜っていると言うなら、冒険者としてはかなり熟練した人なのだろう。
「……イディア様?」
なんだろう。
イディア様はずっとマリアさんの姿を睨みつけていた。
「いえ。館に戻りましょう」
妙な違和感を感じながら、ベローネ館に到着した。
「おかえりなさい。ライル」
ん? 何をしているんだろ?
地面に大きな魔法陣が描かれていた。
そして、その中心には杖が置かれていた。
「何をされているんですか?」
「杖の調整よ。これをやらないと、魔法が使えないのよ」
へぇ……そういうものなのか。
杖は全くの専門外だからな。
全く、わからないや。
ちょっと見てみるか。
「ぶほっ!」
しまった……透視の方を付けてしまった。
フェリシラ様の裸……しっかりと見させてもらいました。
「ライル?」
「い、いえ。なんでもありません!!」
気を取り直して……。
ああ、ドキドキする。
まさか、フェリシラ様の裸にこんな破壊力があったとは……。
……。
杖
品質; B
耐久度; 1499/1500
さすがはフェリシラ様だ。
いい杖を使っている。
耐久度もほぼ最大値だ。
「あら? そのメガネ……何をしているのかしら?」
「これは……」
ロンスリー工房での出来事を話した。
もちろん、透視メガネは秘密だ。
「それは凄いですわね。あっ、これをみてもらってもいい? 実はお得だと思ってまとめ買いをしたの」
……瓶?
透明な液体が入った瓶だ。
「これは?」
「そのメガネで見てみて」
……。
ポーション
品質: C
使用回数: 1/1
「ポーションですね……低品質の」
「なん……ですって? くっ……やられましたわ」
なんだか、随分と落ち込んでしまったな。
「あの……ちなみにいくらで買ったんですか?」
「十本で金貨10枚よ」
高っ!!
この品質で一本金貨一枚?
詳しくは知らないけど、流石にそれは法外だ。
「ぼったくられましたね」
「悔しい……ですわ」
まぁ、こういう客は多いんだろうなぁ……。
でも、このメガネ……使えるな。
掘り出し物なんかも見つけられそうだ。
「そういえば……」
僕はマリアさんの話をした。
「ふうん。何か嫌な感じがしますわ」
そうなのかな?
あまり関わりたくはない人だけど、宿屋を譲ってくれた人だ。
悪い人とは思えないけど……。
「でも、案内は必要ですよね? イディア様もダンジョンは初めてだと言うし」
「まぁいいわ。その女がどう動こうとも、気をつけていればいいんだし」
相当、警戒しているんだな。
それだけダンジョンが危ないってことか。
その夜……
ベローネ様は姿を表さなかった。
「ベローネ様は所用が出来た。後日にお会いになるそうだ」
そういえば、デルバート様からの手紙を渡しそびれていたな。
次に会うときにでも渡せばいいか。
「アリーシャ、そろそろ寝なさい」
「はぁい。じゃあね。ウィネットちゃん」
この子たちはずっと遊んでいたのか?
凄い体力だな。
「行っちゃうの?」
「うん」
「あのね、アリーシャちゃん……一緒に寝ない?」
「……」
僕は軽くアリーシャの頭をなでた。
そんな顔をしなくても分かるさ。
「好きにしていいぞ。迷惑だけは掛けるなよ」
「うん!! ウィネットちゃん、次は何して、遊ぶぅ?」
まったく……。




