side 策士公爵 デルバート
私はデルバート=スターコイドだ。
私はずっと頭を悩ましていた。
フェリシラが女神のような美しさになってしまったからだ。
可愛い妹が……。
私の可愛い妹が遠くに行ってしまったような気分だ。
もしかして、フェリシラは女神の生まれ変わりなのではないか?
私の頭の中では常に妹と接するべきか、神として崇めるべきか……
悩み続けている。
そんな悩みからすれば、極めて小さい問題が起きた。
ベイド君の体たらくっぷりだ。
妹を化物呼ばわりするだけで百回は殺したい相手ではある。
だが、第二王子への復讐を果たすためにはどうしてもウォーカー家を囲い込みたい。
……小さな問題だが、難しい問題でもある。
ライル君を利用する手も考えているが、どうも決定打に欠ける。
もう少し、確実な方法が……。
そんな事を考えている、ある日……。
面白い情報が入ってきた。
鍛冶の街グレンコットの領主の娘が、重い病になっているというのだ。
しかも、その病気はアリーシャちゃんと同じもの。
聞いた話では、その病気をライル君は見事に治してしまったと言う。
最初は信じられなかったが、フェリシラ様……いや、我が妹を治療した姿を見て、信じざるを得ない。
その二つの点は思わぬところで交差した。
それはライル君がグレンコットに向かうというではないか。
これほどの幸運があるだろうか。
グレンコットの領主である魔女はとにかく人を嫌う。
私とて、何度も交渉したが、断られ続けた。
ライルコットの鍛冶も素晴らしいが、秘術である錬金術を手に入れたかった。
どの領主も皆が夢見るものだ。
だが……ライル君を使って、治療を成功させれば……。
……。
機は熟したようだ。
私の手には一つの魔道具があった。
それは『変化』スキルが埋め込まれた道具。
これの凄いところは、エルフの秘術である『錬金術』を用いて作成されているということ。
なんでも、性能を大きく向上させる秘密があるとか……。
まぁ、それはどうでもいいことだ。
大切なのは、この魔道具が私の手にあるということ。
これで……第二王子に復讐が出来る。
それに面白い駒も手に入れられそうだ……。
……。
私はすぐに行動に移した。
メレデルク工房に向かっていた。
表向きの用事は剣のレプリカの作成だ。
これも重要な用件であることには変わりはない……
「よろしく頼むぞ。メレデルク」
「お任せ下さい。我が工房では、レプリカなど……数時間で作らせてもらいますよ」
さすがだな。
ウォーカー家はなるほど、腕は超一流だ。
だが、すべてを個人的技能に依存しすぎる。
その点、メレデルクは適材適所で人員を配備しているおかげで、全てが効率的だ。
もちろん、メレデルクの腕も超一流だけに、仕事は常に最高の結果だ。
私は完成を待っている間、散歩をすることにしている。
この間に色々なことを考えるのだ。
……。
「公爵様。お呼びでございましょうか?」
「来たか……デオドア」
こいつは私の使用人だ。
メレデルク工房に忍ばせ、情報収集を主な仕事にしている。
実に機転の効く男で、将来は右腕として働いて欲しいと思っている。
「ベイドの様子はどうだ?」
「はっ!! 周りからの評判は最悪、本人も常に女を欲している状態です」
本当にどうしようもない男だ。
こんな男に一時は必要なこととは言え、フェリシラと婚約を……。
我ながら、馬鹿げた事を考えたものだと思う。
それも、これがあるから言えることだろうな……。
「これをお前に託す。使い方は分かるな?」
「もちろんです。これでも魔道具技師ですから」
「いいか? これを手にした、あの馬鹿者は必ずフェリシラを襲うはずだ」
「はい。しかし、我らが崇拝するフェリシラ様が心配では?」
私はニヤリと笑った。
「大丈夫だ。フェリシラはライル君と一緒だ」
「そうですか……それで、どう言う情報を流しましょう?」
私は一計を与えた。
それは第二王子とフェリシラが復縁するという話。
考えただけでも虫唾が走るが必要なことだ……。
それを奴に吹き込めば……。
必ず動くはず。
第二王子としてのベイドが……。
考えただけでも笑いが止まらない。
「デオドア。これは二度と手に入らぬものだ。失敗は許されぬぞ」
「はい。あのバカを公爵様の思い通りに動かしてみせます」
彼はすぐに姿を消した。
これこそが私の望む……
最高な部下の姿だ。
おべっかを使わない、賄賂を使わない、そして、フェリシラを崇拝する者。
……。
そして、数日後、小さな事件が起きた。
その報告をどれほど待ち遠しかったことか。
手にした王国秘剣のレプリカと本物を並べ、恍惚としていた時間は終わりだ。
……。
牢獄に一人の男が繋がっていた。
猿ぐつわを噛まされた、裸の男。
むき出しになった陰部は小さく縮み上がっていた。
体にも大きなアザがいくつもある。
きっと、街の者たちに報復にでもあったのだろう。
レイモンド=ライゼファ。
憎き第二王子がそこにはいた。
「レイモンド殿下……何故、こんなところにいるのですか?」
「ふごっ!! ふごふごふご……!!」
見苦しいな。
だが、なんて心地よい景色なんだろうか。
これを何度、夢見たことか。
だが、これは芝居だ。
私が全て仕組んだのだから。
ネタは全て分かっている。
「冗談だよ。ベイド君!!」
「ふごっ!」
私は猿ぐつわを外すように部下に伝えた。
「公爵様!! 信じてくれ!! 俺はレイモンド第二王子だ」
……こいつは本当にバカだな。
私が正体に気づいている時点で、どうして分からない?
私が自分を嵌めたんだと……。
まぁ、それはどうでもいい話だ。
「まぁいいだろう。君はレイモンド殿下だ。それならば、分かるね? 君を処刑するよ」
「どうして!? 俺はレイモンドだぞ!! 公爵ごときに俺をどうにか出来ると思っているのか?」
ふむ……なかなか喋るではないか。
「君は複数の女性を襲った。これは王国法から見ても、重大な犯罪だ。それを認識しているのかな?」
「ふん!! 俺は王子だ! 国の女は俺のもんだろ?」
本当に……。
「君はバカかね? 法とは王でさえも破ることが出来ないゆえに法なのだ。ましてや、王子ごときが……」
「そんな……なぁ、俺は無罪だろ? 罪なんて、いくらでももみ消せるだろ?」
やはり、第二王子をいじめるのは本当に楽しいな。
もっと、やっていたい所だが……。
ここで終わらせては面白くない。
こいつを使って……。
「許してやってもいい。だが……私の言うことを聞けるかな? ベイド君」
「俺はレイモンドだぁ!! ベイドなんて奴は知らない!」
物分りの悪いやつは本当に面倒だ。
「おい。こいつがベイドと認めるまで尋問を続けてくれ給え」
「はっ!!」
こいつは貴重な駒だ。
フッフッフっ……。
ベイドの運命は? まだまだ公爵の陰謀は続く。
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