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第35話 武具の欠陥?

クレンコットから戻ってから、数ヶ月という時間が流れていた。


持って帰ってきた一流の道具で武具を作ったが……。


あまり出来映えに変化はなかった。


それでも、あの街にはもう一度、行きたいという気持ちがあった。


工房見学だけでも……。


親父の厳しい納品ノルマで休むことが出来なかったけど……。


それにもう一つ、問題が起きていた。


「壊れやすい……ですか?」

「ああ。ライルさんの作った武器が評判はいい。それは間違いない。それに一級品だ」


性能を褒められるのは嬉しい。


だけど、壊れやすいというのは聞き捨てならない。


武具は扱う者の命を守るものだ。


それは鎧であっても、剣であっても同じだ。


壊れやすいというのは致命的な欠点と言わざるを得ない。


だけど、分からない。


どうして、壊れやすいんだ?


「何か、特徴みたいなのはありますか? 例えば、この武器が、とか」


何かヒントがなければ、直そうにも直せない。


「そういえば……言ってくるのは冒険者が多いな。それも高ランクの。あいつらの戦いは武器を消耗させるからな」


冒険者……。


「冒険者以外の人は?」

「そういえば、聞かないな。冒険者だけだ。言ってくるのは」


どういうことだ?


高ランクの冒険者と言えば、強敵を相手にする。


しかも、休みなくだ。


つまり、強度不足?


いや、そうだとしたら他の人からも文句が出てもおかしくない。


「分かりました。少し試してみます」

「ん? ああ。だけど、あまり気にするな」


親父はそう言っても、僕にとっては大きな問題だ。


どうにかして、原因を探さないと……。


ひとまず、僕は剣を二本用意した。


一本は横に置く。


両サイドに石を置き、ちょっと浮かせた状態だ。


そして……


「ふん!!」


もう一本でそれを叩く。


カァーンと甲高い音が聞こえた。


「痛ぁ……全然、折れないな」


刃こぼれもまったくない。


強度的には何の問題もなさそうだけど……。


でも……。


僕はひたすら叩き続けた。


「百……二十」


パキンっと盛大に飛んだのは、握っていた剣だった。


こっちが折れた?


叩いた方の剣には少しの傷しかなかった。


こっちのほうが脆かったのか?


だが、同じ強度の武器でこれだけ打ち付ければ、どんな名剣も折れてしまうだろう。


「やっぱり、強度は問題ないよなぁ」


もしかして、冒険者が相手にするモンスターの強度が高いのか?


それは分からない。


でも……。


「一度、モンスターで試し切りをしないといけないかな」


そんなことを考えていると……。


「やあ、ライル君。調子はどうかな?」


デルバート様か……。


「あまり良くありません。今も親父から、強度不足を指摘されて」

「ほお。それで? 本当だったのかい?」


僕はどうにも答えられない。


「分かりません。強度的には問題ないとは思っていますが、現実に折れやすいと言われているみたいなんです」


「強度は確かだが、折れやすい。それは切った相手が硬かった……ということではないかな?」


やっぱり、それしか考えられないよな?


そうだとしたら、今以上の強度の武器を作る必要がある。


でも、その前に……やっぱりモンスターのことを少しでも知っておいたほうがいいだろう。


「ですから、少し調査をしようと思って……」


なんか、嫌な予感がする。


デルバート様から滲み出るニヤリとしたオーラが……。


「だったら、ダンジョンがおすすめだよ。特にここから一番近い……」


グレンコットのダンジョン。


確かに行きやすいのは間違いないが……


いきなり、ダンジョン?


この戦闘経験もない、素人同然の僕が?


さすがに無理があるだろう。


「なに、私だって将来の弟君に無理はさせるつもりはないよ」


なんか、さらっと変なことを言わなかったか?


まぁ、気にしないほうがいいな。


この人の言っていることは。


「実は強力な護衛を付けさせてあげるよ。君も知っている人だよ」


……?


「紹介しよう。魔女筆頭護衛役のイディアだ」


……誰もいませんが?


「私はここだ」


どうして、屋根に。


というか、パンツ丸見えですよ。


あっ、降りてきた。


「久しぶりですね。ライル殿」


殿?


まぁいいか。


「えっと、どちら様ですか?」

「そんなぁ。私をお忘れですか? まさか、まだ許して頂けていないのですか」


こんな強烈な人、忘れるわけがない。


でも、この人……反応がちょっと面白い。


「ほう。エルフ族相手にその態度をとれるとは……さすがだな。ライル君」


え?


あれ、もしかして、この人って偉い人だった?


デルバート様でさえ、気にするような相手だったのか?


「す、すみませんでした。イディア様。とんだ、ご無礼を!!」


ここは誠心誠意謝っておいたほうが……。


「いや、冗談だ。君をからかうのは本当に楽しいよ」


……このやろう。


「とはいえ、エルフ族は我が王国では賓客の立場だ。あながち、君の態度が不敬だとは言えなくもないんだがな」


そうだったのか……。


王国の賓客。


僕は庶民だったな。


これからは気をつけよう。


「イディア様。本当に申し訳ありませんでした」


「いや、あの……どこまでが冗談なんでしょうか? 私は別にライル殿のことは何も気にしていないと言うか……ああ、そうだ。この剣を見てください」


ん?


相変わらず、素晴らしい剣だな。


デルバート様の顔も相当だな。


僕の横で覗き込むように見るのは止めてほしいけど。


「これがどうかしたんですか?」

「ああ。この子の力がすごく増したんだ。ゆっくりだったが、毎日素振りをして実感できたんです」


力が……。


「どういうことかな? ライル君」

「わかりません。イディア様の言う、力というは何のことか」


本当に分からない。


だけど、何かのヒントかもしれない。


僕の『研磨』を知る……。


「さて、じゃあ、行ってくれたまえ」


……?


「どこに、です?」

「決まっているじゃないか。グレンコットだよ。ダンジョンに行くんだろ?」


今すぐに?


さすがに……。


「あと、ついでに魔女様にも会ってきてくれ。君にとても会いたいそうだ。それと、これ」


また、手紙。


「これを渡してくれると助かるなぁ」


……これって行かないといけない感じなの?


「すみません。ベローネ様は旅癖が強く、いつまで滞在しているかわからないのです」


どうしても魔女に会わなければならないのだろうか?


「安心し給え。タダとは言わない。帰ってきたら、君にいいものを見せてあげよう」


いいもの?


どうも、怪しいんだよな。


「ドム・マグナ。聞いたことあるだろ?」


それって……王国最強の剣と言われる……。


王城の最奥に鎮座し、その姿はほとんど公にされない幻の剣。


「見れるんですか?」

「ああ。どうする?」


そんなのは決まっている。


「グレンコットに直ちに向かいます!」


ドム・マグナ……鍛冶師なら一度は見たいと夢見る剣。


それが見れるのか……。

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