side 工房見習い ベイド
俺はベイド=ウォーカーだ。
メレデルク工房で修行を始めて一年になる。
本当にふざけた場所だ。
俺を誰だと思ってやがる。
ウォーカー家の次期当主なんだぞ。
それがなんで、こんな場所で……。
「おいウォーカーの倅、これを運んでおけって行っておいただろ!!」
「俺はベイドだ!! 名前くらい、覚えやがれ!!」
くそっ!
どいつもこいつも、ウォーカーの倅呼ばわりしやがって。
俺は天才なんだ。
こんなところでくすぶっている場合じゃねぇ。
一刻も早く、ここを出て……。
女を抱きてぇ。
「ベイドの兄貴。探しましたよ」
「なんだ、デオドアか」
最近、まとわりつき始めた奴だ。
まぁ、俺の貫禄に魂が震えたって奴なんだろうな。
何でも、言うことを聞くから、重宝しているぜ。
「持ってきたか?」
「ええ。大変でしたよ」
こいつの勿体ぶった言い方はいつも気に入らねぇ。
さっさと出すもの、出せばいいんだよ。
「早くしろ。へへっ。これだぜ」
パンにチーズ。それにワインだ。
ここの食事はクソみたいに不味いくせに量も少ねぇ。
こんなんじゃあ、俺の胃袋は満たされねぇよ。
「おい、それで」
「はい? なんでしょう?」
使えねぇやつだな。
「外の情報は?」
こいつは工房付きの職人じゃねぇ。
事務方みたいなことをしている。
そのおかげで外のことは、こいつから全部仕入れている。
「ええ。大した情報ではないんですが……」
また、勿体ぶりやがって……。
「スターコイド公爵が工房長に会いに来ました」
……なかなかおもしろそうな話だな。
フェリシラ……俺の愛おしい女。
あの女を抱くためなら、なんだってするぜ。
あれほどの女、俺は見たことがねぇからな。
「それで? 何か弱みは握れそうか?」
「いえ。それはなんとも……」
使えねぇな。
弱みの一つも握れば、俺とフェリシラの結婚が進むかもしれねぇって言うのによ。
「それで? 何の話だったんだ?」
「なんでも、王国秘蔵の剣のレプリカを作成しに来たようです」
ちっ!!
スターコイドといえば、武具マニアで有名だ。
頼みに来るなんて不思議じゃあねぇな。
「他には?」
「あとは……その公爵の妹さんと第二王子との婚約を戻す……とかなんとか……」
はぁ?
おいおいおい、ふざけんじゃねぇぞ。
第二王子だと?
俺の婚約者を奪おうっていうのか?
「ベイドの兄貴、顔が怖いですよ」
「うるせぇ。その話は本当なんだろうな?」
くそッ!!
どうする?
第二王子となると話はややこっしいな。
一層のこと、既成事実を作っちまえば……。
だが、俺が捕まる可能性もある。
それだけは勘弁だな。
「ああ、そういえば……」
「なんだ?」
「実は先程の話で……」
先程の話?
「何のことだ?」
「レプリカの……」
そんな話はどうでもいい。
フェリシラを取るためにどうすればいいか……。
くそっ!! 思いつかねぇ。
「工房長と公爵が揉めたんですよ。あれ程、白熱した喧嘩を見たのは初めてでしたよ」
何をペラペラと……。
「それで公爵がどうしたと思います? 魔道具を出したんですよ」
……。
「なんて言ったかな? とにかく、それで工房長は折れて、レプリカ作成を許可したんです」
……。
「詳しく教えろ。二人は何で揉めていたんだ?」
なんとなく、気になる話だ。
「ええ。公爵は秘蔵の剣を一時間だけ工房に預けると言ったんです」
見えてきたぜ。
さすがに一時間程度ではレプリカ作成は不可能だ。
もっと長い時間、預かりたい……そういう話だ。
だが、秘蔵の剣だ……おいそれと貸せるものじゃねぇ。
そこまでは話は分かった。
だが、工房長は結果的にはレプリカ作成に応じた。
それが分からねぇ……。
そのヒントが、公爵の出した魔道具ってやつだ。
これがどんな代物なのか……
気になるぜ。
「魔道具について、詳しく教えろ」
「はぁ……私も詳しく知らないのですが、『変化』スキルの魔道具のようで」
変化?
つまりは……見えてきたぜ。
その魔道具を使えば、変身することが出来るってわけだ。
そうすりゃあ、秘蔵の剣がなくてもレプリカが作れるわな。
なにせ、魔道具で変化した剣があるんだから。
……へへへへっ。
やっぱり、俺は神に愛されているようだな。
面白い作戦を考えちまった。
これを実行すれば……少なくともフェリシラを抱くことが出来る。
上手く行けば……第二王子も終わりだ。
婚約も終わり! 全部、終わりだ!!
そうすりゃあ……フェリシラは俺のものだぁ!!
「ベイドの兄貴?」
「おい、その魔道具、盗んでこれるか?」
俺はその夜……工房を脱走した。
そして、俺の手には魔道具が握りしめられていた。
この後、ベイドに悲劇が! 公爵の思惑は?
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