side 婚約者 フェリシラ
お兄様の部屋から出てきたライルの顔はとても明るかった。
何か、いい事でも言われたのかしら?
「工房?」
ライルが我が家の工房を使うことになったらしい。
それって……ライルが屋敷に来てくれるってこと?
それも毎日……。
嬉しい!!
どうしても笑みがこぼれてしまう。
でも、私は貴族よ。
隠さないと……
「フェリシラ様?」
「もういいでしょ? あっちに行って下さい」
これ以上はもう無理。
……ごめんなさい、ライル。
「フェリシラお嬢様。どうぞ、中に」
「やあ。フェリシラ。昨晩はずっとライル君と一緒だったんだって? 嫁入り前だと言うのに、それは良くないな」
たまらず顔が赤くなってしまう。
「そ、そんな如何わしい言い方をしないで下さい!! ライルとは……何もないんですから」
「おや? 随分と寂しそうではないか。手を出してくれないことに苛立っているのかな?」
「お兄様!!」
この手のからかいは本当に止めて欲しい。
折角、ライルへの思いを諦めようとしているのに……。
「それは済まなかったね。ライル君にも告げたんだけどね……」
「聞きました。工房をお預けになられるとか。でも、なぜ? 庶民には過ぎたる厚遇では?」
公爵家の敷地内とは言え、庶民が出入りするような場所ではないのはお兄様も承知のはず。
本当に何を考えていらっしゃるのかしら?
「その割には嬉しそうではないか? ライル君と毎日会えるのが……かな?」
「お兄様!!」
そんなに顔に出ているのかしら?
貴族たるもの、感情は表には出してはならないのに。
「まぁいい。妹をからかうのはこれくらいにしよう」
お兄様が真剣な顔?
私も真面目に聞かなければなりませんわね。
「彼には三年という時間を与えた。王国のコンテストで入賞以上を目指してもらう」
それはどういうことでしょう?
確かにライルは先のコンテストで最優秀を取りました。
それはとても素晴らしいことです。
もしかして、それを応援しようと?
でも分かりません。
今までだって、最優秀を取った人はたくさんいます。
応援なんて、一度もやったことがないのに。
「どうしてか、分からないかい?」
「はい。ライルにそこまでの価値があるのですか?」
お兄様は実利主義だ。
利益がなければ、動かない。
私のように感情では決して……。
「私はね、彼にはウォーカー家の名跡を継いでもらいたいんだよ。彼にはそれだけの才能が眠っている……と私は思っている」
ちょっと悔しいですね。
ライルに関しては私が一番理解しているつもりでした。
だけど、お兄様は私よりも何でも一枚上手をいく。
「そんなに、ですか?」
「まぁ、私は専門家ではない。だが、そうあってほしいという願望もあるんだ」
お兄様が願望を口にするなんて珍しい。
どういうことでしょうか?
「コンテストで入賞すれば、必然的に彼はウォーカー家の後継者だ。それは分かるね?」
「はい……」
心がざわつきます。
お兄様が何を言うのか、少しずつ分かってきました。
それがとても嬉しくて、嬉しくて……。
「フェリシラ。 王国のコンテストで入賞すれば、ライル君とは婚約者になってもらうよ」
こんなことってあるのでしょうか?
絶対に叶うことのない夢が目の前に。
しかも、公爵家当主の口から。
お兄様は口に出したら、絶対に何があっても成し遂げるお方。
私は今、どんな顔をしているのでしょうか?
きっと、幸せな顔をしているのでしょうね。
……。
「分かりました。謹んで、当主様の意向に従います」
「それでいい。さあ、今日はお祝いだ」
宴の間、お兄様は真剣な顔でずっと言っていました。
「ライル君にお兄さんと呼ばせるにはどうしたらいいものか?」
と。
私は恥ずかしい気持ちになりながらも、答えました。
「私と結婚すれば、その……ライルにとってもお兄様になるのでは?」
「その手があったかぁ! くっ……三年は長すぎたか」
お兄様は時々、頭がいいのか悪いのか分からなくなります。
私は決めました。
私はウォーカー家の後継者との婚約者。
ベイドとかいう不届きな者なんか、絶対に嫌です。
もう、ライルとの結婚しか考えられません。
なんとしてでもライルを応援しましょう。
そのためには……私はこの体を早く治さなければなりませんわね。
「ちょっと、誰か!!」
「なんでしょう、お嬢様」
五体に力が湧いてきます。
これが生きる力……
「すぐに医者を連れてきて」
「どこか、体調が優れませぬか?」
「違うわ。早く治すためにやるべきことをやりたいの」
「お嬢様……はい! すぐに呼んで参ります!」
ライルと婚約……絶対にその未来を勝ち取りますわ!
令嬢の夢は叶うのか!?
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