君と君
フェルベライトは一週間ほど眠ったままだったらしい。
死なないから大丈夫というアッシュの言葉はあまり信用されず、医師や専門家が呼ばれそうになって入れない部屋に保護となったそうだ。
調べられたら人間じゃないのばれるじゃんとアッシュは苦い顔をしていた。
一応はミンも大丈夫だからと周囲の人を説得はしたらしい。自分がちゃんと世話するからという話で。
実際世話はされていたようだった。食事の提供という形だったが。眠る前より少しだけ身長が伸び、人に説明しづらくなったのは予定外だった。
調子もよくないからと森の家にまで戻ってきたところでフェルベライトはようやくほっとできた気がした。
寝かしつけられそうだったところをフェルベライトは止めた。
フェルベライトはミンとアッシュには、眠っていた間のことを説明しなければならない。
そこで別の自分に会い、自意識の消滅の危険があること。それを回避したいならばもう一つ体を用意するしかないこと。それには莫大な魔力が必要であることも。
「ちょうどいい」
そういったのはアッシュだった。
「莫大な魔力の当てがあるんですか?」
フェルベライトの疑問にミンを指さした。
「魔力過多の病気。器が壊れるほどの量余ってる。ほっといたら数年後には死亡予定」
「へぇ……え!?」
ものすごく普通に言われてフェルベライトは流しかけた。言われたミンは呆れたような視線をアッシュに送っているが、そこまで軽く言われていいものであろうか。
「元々20は超えられないと言われていた。今は余暇みたいなもの」
「とか言って悟った顔してるから、従兄連中にお前はっ!とよく怒られてる」
「……そ、そうですか」
フェルベライトは他にどういえばいいかわからなかった。
本人たちに悲壮感はない。ただ、思い返してみればなんとなくミンが気遣われていたように思えた。
「都合よく食料があってよかったな」
「食料……」
さすがに言い方、と思いはすれど、中身は一緒である。そして、現在のところ、最適な選択というものが一つしかない。
フェルベライトはミンに向き直った。
「お手数をおかけしますが、協力いただいてもよろしいでしょうか」
「構わないが、予定を組まないと変に成長してまずいことになる」
「……そうですね。あ、じゃあ、分裂したところに魔力を入れて」
「それ、なんか、死体みたいになるからやめなよ。外見をかえない練習しよ」
「え」
フェルベライトは訓練の日々を送ることが確定した。
それから3年。
フェルベライトは無事分裂した。小柄な8歳児の双子が爆誕。ただし、双樹のほうはまだ眠いと森の奥で眠ることになった。
サラ単独になったことで別の変化もあった。短時間ではあるが、元の姿に戻ることができるようになった。
フェルベライトは美形すぎて落ち着かないと以前のサラの姿で固定するつもりである。
新しい身分証など必要な処理はあるもののなんとかされるそうだ。最高権力者が味方であるのはやはり強い。
ミンとの関係は疑似親子からもう少し別のものに変化しつつあるが、お互いに認識し合うのはもう少し先のことだろう。
アッシュは心配事が減って、増えたと嘆いていたが概ね機嫌が良さそうだった。
偶然落ちてきた異世界だが、フェルベライトになったサラはここで生きていく。元の世界に未練がないとは言えないが、もう、戻れないのだ。踏ん切りをつけて先に進むしかない。
それにここには気がかりができてしまった。
一応仮の父の生存である。
「長生きしてくださいね」
「まあ、可能な限り」
曖昧に笑うミンを長生きさせるべく、研究もしたいところではある。魔力過多症は貴族の病とも言えて、魔法の偏った運用の結果ともいえた。
これから、魔法を減らしていくことになるだろう。それが、良いことなのかはわからない。
しかし、世界の果ての穴をこれ以上深くしないためにも必要だろう。
でもまあ、それは先送りでいいかとフェルベライトは思う。一応、まだ、子供であるのだから。
未来のことは大人にお任せ。日常をそれなり過ごしていけばいいだろう。
いつか、妹が目覚めるときに話すことを増やしてあげるために。




