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魔物な彼女の異世界ライフ  作者: あかね
Hallo,My Sister!

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21/27

失われた欠片

 フェルベライトが仮の父親を捜している頃、彼は子供の相手をしていた。

 彼は従兄の子には弱い。一般的に子供と言われるものに冷たく振る舞うのは苦手とする。結果こうなったわけだが。

 ミンはひっそりため息をついた。シェンナが気が向いたら2、3日中に来るようにと言っていたのを思い出したのがまずかった。

 私室に一度寄ったのも目撃されたのだろう。

 私室に顔を出したのが、まず、ヴェールだった。保護者代わりの侍女を連れて扉を少しあけてのぞき込んでいる様は小動物のようだ。

 自分の役目の後継になるかもしれないヴェールとリアにはやっぱり少し甘い。彼らにあの環境が良いとは思い切れないから。

「みん、あのね、ねーさま、いつくるの?」

 ミンは首をかしげる。ヴェールが姉と呼ぶのはリア、ブランダのいずれかだ。確か、妹ができたと喜んでいたりもしたが、新しい姉が生まれたとも聞かない。

 しかし、リアもブランダも城にいるはずだ。

「くろいねーさま」

 わかって貰っていないことがわかったのだろう。ヴェールは目に涙を浮かべて続けた。

 日頃は大人しいヴェールにしては今日は大冒険をしていることにミンは気がついた。それほど大事なことと言う。

「フェルのことですか?」

 該当する娘など一人だけ。ミンはヴェールを抱き上げ、目線をあわせる。新緑に似た色の目が驚いたように見開かれた。

「あの子は、まだ外に出てはいけないんです」

「またくるっていってたの。にいさまがいったの」

 ぽろぽろと涙をこぼしながら訴える姿は何か悪いことをしたような気になる。しかし、だからといって城にフェルベライトを呼ぶわけにもいかない。

 フェルベライトは少なくとも自発的に来ようという意志はなかったように思うが、それは勘違いだったのだろうか。

「なにがそんなに気に入ったのでしょうね」

「きらきらしているの。ぱぁってひかるの。みんといっしょ」

 そう言えば、そんなことを昔聞いたことがある。ミンは子供の表現と放っておいたが、実は何かの発露だったのだろうか。

「そう。部屋までお送りしましょう」

 ミンはそう言って侍女へ視線を向ける。はっとしたような表情を見せて、すぐに顔を伏せると扉を開ける。そして、先導するように先に歩き出した。

「あのね、まえね……」

 たわいのない話しをヴェールは楽しそうに口にする。先ほどまで泣いていたことも忘れたようだった。

 ミンは謎の生き物を見るような心地がした。兄弟もおらず、年の近い従兄弟とは離れて暮らし子供と一緒にいたことはほとんどない。どうすれば、彼らが興味を持たないのか考えたものだが、最終的に無駄と知った。

 泣いた子に勝てる気はしない。放置しておけばいいものを慰めてしまうのだから論外だ。

 ヴェールの部屋は王城の奥に位置する。後宮と呼ばれる場所からも近く、王の執務室がある本棟からもそんなに遠くない場所だ。

 ミンの私室は本棟の外れにあるのだから、ヴェールにしては大冒険だったに違いない。

 たどり着いたヴェールの私室には他の兄弟がそろっていた。

 ノワ、リア、ブランダの三人がそれぞれにくつろいでいる。

「……ひどい話ですね?」

 ミンはため息をついた。やられたと思ってももう遅い。

 ヴェールの大冒険は兄か姉にそそのかされたのだろう。その結果、彼が部屋まで送りに来ることも織り込み済み。

 まんまと誘導されてここに来たということだ。

「だって、あなたはすぐに旧城にこもるし、旧城は僕たちはいけないから」

 シェンナとよく似た物言いだ。ミンはヴェールを下ろしながら、この先の成長に危惧を抱く。

 ノワは長子ではあるが、だからといって王になるとは決まっていない。選定候が議会の承認した人物の中から決める。故に等しく王位は与えられる可能性があった。

 それを見越しての教育方針が決められていると聞いたが、少し違うようだ。他の子が育つまで、待っていられない。一人でもふさわしいものをと考えているのだろうか。ミンは苦言を呈するべきか迷うが、ノワに言っても仕方のないことだろうと思い直す。

「それで、私にどうして欲しいんです?」

「お茶でもいかがですか?」

 ミンはかぶりを振って拒否する。彼が外では滅多に食べ物を口にしないことは知られている。飲み物も例外ではない。

 ノワもわかっていて、儀礼的に勧めたにすぎない。

「フェルもわたしたちといっしょに学んで欲しいの」

 リアがそう話を切り出す。

 どうにも断りにくい話を出してきた。ミンは眉を寄せた。そのうちフェルベライトに与えられる地位は王族の娘だ。必要な礼儀作法や常識はミンやアッシュが教えるにも限界がある。その話だけならばシェンナから言われれば、断ることもしない。それは、根回しも既に終わっていることが前提だ。

 しかし、子供たちが言うということは彼らが考え実行したということになる。

 わかりやすいだろうそれをシェンナが気がつかないのだろうか。

「陛下の了承はとられましたか?」

「これからです」

 ノワが答える。誰かが、入れ知恵したのかもしれない。ミンが断らなければ、シェンナも了承するだろう。いつかは必要になることだと。

「では、陛下にお尋ねください」

 ミンは判断をシェンナに丸投げした。断るなら大人相手に断ったほうがまだましだ。

 フェルベライトの扱いは未だ定まっていない。もとより一人で決断して良いことではない。

 王城に放り込めばどうなるか想像がつくだけにミンとしては先送りにしたい。既に彼女は目撃され、口止めされているが噂は駆け巡ったようだ。しかし、事の真偽をミンに直接聞くものはなく、アガットが被害にあっているらしい。人の良さそうな、実際人当たりの良い彼に尋ねる気持ちはわからなくもない。

「どうしてですの?」

 ノワが口を開くより一瞬早くリアが問う。信じられないと言いたげな表情は彼が返答しないことを考えていなかったようだ。

 甘やかし過ぎただろうかとミンは少し反省する。人との距離の取り方は今でも難しいと思う。そばにいたのがアッシュで、たまに会うのがシェンナであったのだからそうなって当然だと彼は責任転嫁する。

「リア、ダメだよ。父様に聞かなきゃ、ダメなことだから」

「だって、フェルも私たちと同じでしょう? 一人はさみしいわ。フェルが寂しくて悲しいかもしれないのに、それでもいいの?」

 それは彼女の優しさだろう。しかし、ミンは眉を寄せた。わずかに雰囲気も険悪さを感じさせ、ヴェールは慌てたように姉の服を引っ張った。

「あなたの優しさはわかりました」

 ミンの優しいとも感じさせる声は冷たく響いた。口元にうっすら浮かんだ笑みは美しい仮面のようにも見える。

「しかし、あなた方のそばの方が良いというのは傲慢です」

 ミンはそれだけ言い、部屋を出るために彼らに背を向けた。

 うっすらと制御を失った魔力が体を覆うことを自覚した。ミンはため息をついた。これだけで動揺するとは思いもしなかった。

 彼らは好意の延長線上で言っていることはわかっている。

 リアがかわいそうだと言った境遇は、ミンの幼い頃と同じなのだと気がついていない。そのことはわかっているが、その境遇をかわいそうだと言われるのも古い記憶が痛む。いつになっても治る様子がない。

 過剰反応だとも自覚している。それを自覚するくらいにはまだ冷静だ。

「陛下とよくご相談ください」

 そう譲歩を示しておくことを忘れないほどには。

「え、なに? あいつにそんなこと言ったわけ?」

 いきなり執務室に駆け込んできたかと思えば、膝によじ登るまでの作業がすばやい。さすがは剣士の娘とどうでも良いことを考える。

 そうでもしなければ機嫌が直角になった従弟の相手をする現実から逃げられない。

「はい」

 赤毛の娘はしょげた風だった。最初は涙目だったので何があったかと驚いたモノだが、話を聞けば納得する。

 ミンにその単語はやばい。今でこそ言う人はいなくなったが、過去痛い目を見た人は多い。

「ブランダ、怪我はないか? ん、痛いところとかだるいとか今日運勢悪いなと思うとか」

「……ありませんよ?」

 不思議そうな顔でブランダは見上げた。直接言った姉は盛大にへこんで、寝台に籠城中だ。兄にかんしゃくを起こしクッションをぶん投げてから。

 シェンナはブランダの髪を撫でながら、一時書類を放棄する。彼が手を加えるのは直轄領のものが多い。ちょっとくらい遅れても問題はない。

「リアは優しいんだけどな」

 しかし、猪突猛進なのは母親似だ。結果、善意は問題ないが、やや押しつけがましくなるのだろう。

 ブランダはちゃっかりな娘に育ちつつあり、ヴェールは甘え上手になるだろう。

「まあ、フェル、の処遇は検討中だ。来月には一緒に勉強してもらうことになるだろうが」

 それが良いことかと言えば、混沌としている。激震が走ったのは間違いはないのだが。

 おおむね好意的で有ることが幸いだろうか。むしろ悪意の方が排除しやすいのだが、好意の形で望まないものを押しつけられることもあるだろう。

「……よろこばないのか?」

「さいしょに父さまに言えばよかった」

「と思うが、仕方ないだろう。ノワが言ったのだろう?」

「んーん。おばさま」

「……あぁ。なんだって、アレはミンのことになると冷静じゃないんだろうな」

 シェンナにはブランダの言うおばさまに当たりがつく。裏目に出がちを通り越えて、わざとやっているのかと思うほどの空回りに乾いた笑いしか出てこない。

「さて、リアを慰めてくるか」

「あい」

 にぱっと笑った娘は可愛い。おそらく、姉を慰めるために彼を連れ出すことを目的としていた。そうと知っていても気がつかないふりをしてあげたくなるほどには。

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