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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編

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292.始動(2)

「というわけで是非由美ちゃんにも出て欲しいのよ」


「いまさら?」


千夜は鳥居由美とりいゆみに電話をかけた。芸歴が年齢とほぼ変わらない。最も成功した子役上がりの女優。若手ナンバーワン女優と言えば鳥居由美だけど、冷たい返事が返って来た。


「いや、もっと早く伝えた方が良かったんだろうけれど、まずは正攻法で事務所を通した方がいいかな、と思って」


「だからぁ、先週にオファーを貰って即OKで返事してるのに、今更千夜ちゃんから電話があったからさ」


ああ、そうなんですね。


「あれ、なんか調整中って聞いたんだけど? 行き違い?」


「さあ? でもそりゃあ調整ぐらいするでしょ。ギャラが低いとか?」


千夜は返事に詰まった。


「ゴメン。正直お金の話は知らなくって」


「いや、千夜ちゃんが知らないことぐらいわかるって。でも結構頑張って調整してるみたいよ? 結構急な話だったから」


「大変申し訳ございません」


千夜はリアルで頭を下げながら電話を続けた。


「で、役柄なんだけどさ」


「はい、お嬢様。どのようなご用件でしょうか?」


用件は終わったけれど、何気ない会話にもアドリブを差し込まなければならない。それがこの世界のルール。


「もちろんやけん、私が主役に決まっとぉよね?」


おっと、ここでいきなりの博多弁。アクセントも完璧だ。だが千夜も負けずに即応する。


「残念じゃっどん、このわっぜにキャスティングさ口出しすっちゅう立場にゃおらんごたっです、はい」




4月は学年も変るけれど、将棋界の年度も替わる。そして静香は番勝負の季節でもある。


女子オープン、女流王偉、鋭王戦が並行して進行するので結構大変。でも将棋界の注目は静香が出場しない、名人戦に注目が行ってしまう。やっぱり竜帝と名人は将棋界にとって特別だから仕方がない。


静香だって今年度はA級にあがるので、1年後には挑戦できるかもしれない。もし今のタイトルを守りきって、なおかつ名人に挑戦することになったら4つ並行になるのか……時間的に無理じゃない? でも流石にそんなことにはならないと思う。


そしてそれ以外の棋戦もある。王偉戦のリーグ戦は今の所3-0、あと2戦あるけれど、挑戦者決定戦に出場できる可能性がある。王者戦は昨年度準決勝で負けてベスト4。今年は本戦から参加できるけど、それも4月から始まる。


竜帝戦は3組の決勝に進出。3組は優勝しないと本戦に出られないので鬼勝負になる。幸い4月には対局がない。


公共放送杯は昨年優勝しているので予選は免除。で、こちらも本戦が4月から始まる。実際に録画の収録自体は既に始まっているけれど、静香はシードされているので初戦はまだ。


そして白銀戦。残念なことにここ数年、白銀戦は少し議論されている。白銀はナンバー2を決める棋戦になっていないか? というものだ。


白銀戦は順位戦を元に作られた。それまでは女流棋士全員が参加できるリーグ戦は無く、トーナメントの初戦で負けるとその棋戦には来年度まで参加することができなかった。


極端な場合、もし運悪く格上の相手とか、体調不良とかが重なり初戦で負け続けてしまった場合、白銀以外の7タイトルだけでは、年間に8局しか指すことができない。棋戦の数よりひとつ多いのは、例外として聖麗戦のみ一度だけ敗者復活戦の機会が許されているダブルイリミネーション方式だから。


そして対局数が少ないということは収入にも露出にもモチベーションにも響く。次いつ指せるかわからないのに研鑽を積むことはなかなか難しい。そしてそのような状況を改善するべく、関係者やスポンサー様のおかげて設立されたのが白銀戦。現状、女流のタイトル戦の中では最も新しく、総賞金額も大きい。


こうして女流棋士にも8つめのタイトル戦ができた。とても素晴らしいことだ。でもそれについて議論が沸き起こっている。


他の7つのタイトルはここ3年間ひとりの女性棋士が独占していて、多くの挑戦者たちをすべてスイープ、一敗もせずに圧倒している。その中には白銀経験者も在位者もいる。


明らかに一番強い女性が参加できないのは制度に問題があるのでは?


そのように考えるファンが増えた。興行である以上ファンとスポンサーの意向は重要。だが同じ疑問を持つ者でも、その解決方法は大きく分かれる。


イレギュラーな存在がいてもルールはそのままであるべき、特別な存在には特別な待遇を与えるべき、そして異物は排除すべき。


この騒動は、そもそも本家の順位戦だって現在存在する3人のタイトルホルダーのうち名人自身を除く2人は挑戦するチャンスを与えられていないのだから同じ問題がある。順位戦にまで飛び火して主に匿名のネット空間で、散々脇道に逸れつつも議論された。


とは言え新四段がC級2組、あるいはフリークラスからキャリアを始めるのは誰しもが同じで、かの御厨先生もそう。初参加の竜帝戦で6組から勝ち上がってタイトルを取った櫛木さんも、同期の静香と同じペースで順位戦のA級まで上がってきた。白銀戦だって元奨励会三段の大沼先生がD級から参加している。


だからこれが当たり前なんだよね。

おかげ様で今週はなんとか更新できました。

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― 新着の感想 ―
世界的な俳優、女優、ミュージシャンを集めて将棋の振興になる事をすると言う香織さんのアイデアの内容が思いつかないので気になります。
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