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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第十九章 アクシデントだらけの練習開始

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第83話 ひよこの『ヒーリング能力』

 菰田の怪我は顔面の鼻骨骨折と言う大怪我だった。それなのに誠以外誰一人菰田の事を心配する様子が無いのに、誠は『特殊な部隊』の隊員達の神経を疑った。


「まあ、ひよこちゃんがいれば平気よね」


 転がる軟球を拾い上げたキャッチャーのアメリアの顔には心配する様子などみじんも無かった。誠は菰田の怪我がかなりのものだというのに誰も心配しない様子を見て不安に襲われて言葉が無かった。


「アメリアさん。いくら菰田先輩のこととはいえひどくありません?それに鼻骨が骨折って結構重症ですよ。下手をすると脳に障害が残ったりして……その割にみんな冷たくないですか?」


 誠も目の前の事故の重大性に気づいて走って菰田の倒れこむホームベース上に向かった。


「菰田先輩!大丈夫ですか!」


 黙っているひよこの後ろから誠は声をかけた。菰田は顔面に球を受けた衝撃で脳震盪を起こして気絶していた。


「それにしても、皆さん酷くありません!仲間が骨折したって言うのに誰も心配しないなんて!」


 菰田の事故を見ても動こうとしない野球部員に向かって誠は叫んだ。


「だって、ひよこちゃんがいるじゃない」


「そうだ、ひよこがいる」


 最初から心配する気は無いという様子でアメリアとかなめはそう言って事態を静観していた。


「良いんですよ、誠さん。これからが私の『力』の出番です」


 ひよこはそう言うと折れている菰田の鼻骨の当たりに手をかざした。


「手当ですか……そんなことして何が……」


 隣に立ってその様子を見守っていた誠はすぐにかざされたひよこの右手に起きた異変に気付いた。ひよこのかざした右手が青白い暖かい光に覆われた。その光はそのまま菰田の顔から頭全体を覆いしばらく神々しい光景が誠の前に展開していた。


「手が光ってる……何が起きているんだい……」


 目の前の理解不能な状況に誠は戸惑いつつそうつぶやいた。誠が見たことが無い明らかに不思議な光景を見ても部員達はそれが当然と言うようにただ黙って見守っているだけだった。


「これが私がこの部隊にいる理由……『ヒーリング能力』です」


 ひよこの手の光はしばらく続き、そして静かに消えていった。


「もう治りましたよ。菰田さんはしばらく寝かせておいてあげましょう」


 そう言うとひよこは傍観していた野球部員達に目をやった。気づいたアメリアが菰田を抱き上げるとそのままダグアウト裏へと運んでいく。


「『ヒーリング能力』?それって、僕の『光の剣』や『干渉空間』みたいな『法術』ってこと?じゃあひよこちゃんも……『法術師』?」


 誠はようやくひよこもまた自分と同じ『法術師』で有ることに気づいた。


「そうです。以前言いましたよね?この部隊でけが人は出ても死人は出たことが無いって。それは私の力が有るからです。軽いけがや病気はどうにもできませんが、骨折や腕がちぎれるような大怪我をした時、私の『ヒーリング能力』で元通りにできるんです。だから隊長は私を拾ってくれたんです。それが私がここにいる理由。こんな私でも役に立つことができて隊長には感謝しています」


 驚いている誠に戸惑ったような表情を浮かべながら、ひよこは誠にそう言った。


「そんなすごい能力……みんなの為に使わないと!『特殊な部隊』の馬鹿が独占しているなんて社会の損失だよ」


 誠は初めて見る『ヒーリング能力』の凄さに驚いてひよこの肩を掴んでそう叫んだ。


「意外とありふれた能力なんですよ。この能力。町の『名医』と呼ばれる人の中にも『ヒーリング能力』を持つ人がいます。『法術』が伏せられていたから誰も指摘しなかっただけで、私はそんなに凄い人じゃありません。『光の剣』みたいなレアスキルを使える誠さんの方が凄いですよ」


 『法術』の存在が誠が『近藤事件』で『光の剣』を使うまで公然の秘密だったことを思い出して、誠は得意がることも無くそのまま菰田の寝ているダグアウトに向けて歩き始めたひよこの後姿を眺めていた。


「そうなんだ……みんな知ってて隠していたんだね。アメリアさんが前に『法術』を公然の秘密って言ったけど、そういうことなんだ……」


 誠は自分自身にそう言い聞かせるようにこの遼州人の国が自分達の能力を地球人から隠して暮らしてきた事実を再確認した。




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