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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第十七章 領主様への心遣い

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第75話 昨日の露天風呂での出来事

「なに見てるんだ?」 


 ウェイターが運んできた朝食を受け取りながら、かなめはそう切り出した。


「いえ、ちょっと気になることがあって」


 誠が考えていたのは昨日のアンと言うベルルカンの失敗国家『クンサ』から来た少年兵の事だった。 


「なんだ?言ってみろ。金の事なら相談に乗るぞ」 


 かなめは早速、アジの干物にしょうゆをたらしながら尋ねる。かなめにとって誠が困ることと言えば趣味で使いすぎる金の話だけらしい。そう思うと誠は苦笑いを浮かべた。


「昨日言わなかったんですけど、なんだか不思議な少年に会ったんですけど」 


 その言葉にかなめは目も向けずに頷いて見せた。


「不思議な少年?昨日はここはアタシ等の貸し切りのはずだぞ。客なんていたのか?」 


 どうでもいいことのようにかなめはあっさりとそう言った後、味噌汁の椀を取ってすすり込んだ。


「ええ、なんか急に僕に話しかけてきて……しかも僕のこと知ってるみたいで」 


 誠はスタッフが運んできたアジ定食を受け取るとそう言ってかなめに目をやった。


「知り合いじゃねえの?オメエが忘れてるだけとか。高校時代は野球部の有名人だったわけだからその時のファンの少年が大きくなって現れたとか……そう言う奴じゃねえの」


 相変わらずかなめはつれなかった。


「そんな、『少年兵』に知り合いなんていませんよ!」


 誠の言葉を聞いてピクリとアメリアが反応するのが誠から見えた。


「ああ、ここに泊まってたんだ……あの子」


 まるですべてを知っているかのようにアメリアはそう言ってアジの中骨に着いた肉をこそげ落として食べ始めた。


「あの子?知ってるのか?まあ、アメリアは運航部の部長だ。部長権限で知っているということはうちの部隊に関することか?」


 カウラがアメリアにいつも通りの仏頂面で尋ねた。


「第二小隊の話……進んでるのよ。『近藤事件』で法術の軍事利用の禁止の条約はできたけど、それをどこも素直に守るわけないじゃない?そこで、司法局でも実働部隊にもう一個小隊を編成してカウラちゃん達が留守の時に東都を守ろうって訳」


 アメリアはそう言って静かに味噌汁をすすった。


「しかし、それを言うなら『少年兵』の存在は戦争法違反だぞ。ベルルカンでは少年兵を使い捨てにする非道な作戦ばかりが繰り広げられてきたらしい。関われば大問題だぞ」


 カウラはデザートのメロンを食べながらアメリアにささやいた。


「だから、今はこうしてかなめちゃんの家のサービスが効く隊長の目の届くところにいるのよ。あの子、まだ17歳だから……18歳になったら配属になるって。成人すれば『少年兵』ではなくなるでしょ?うちだって西君と言う19歳がいるじゃない。18歳の隊員が居てもおかしくないんじゃない」


 そう言うとアメリアは誠を見つめた。その表情は漸く自分よりも下の後輩ができることを喜んでいた誠にはアメリアが何か企んでいるように見えた。


「よかったわね、誠ちゃん。部下が一年以内にできるんだから……それまでは島田君から『パシリ』扱いだけど。うまくすればその境遇から脱出できるかもよ」 


 アメリアは冷やかすような調子で誠にそう言った。


「カウラ、第二小隊の話はどこまで進んでんだ?小隊長権限では情報に限界があるのは分かってる。アメリアに聞いても嘘しか言わねえから本当のことを言え」 


 今度はかなめがカウラに話題を振った。嘘つき扱いされたことを不服に思っているのか、アメリアは黙り込んだままデザートのメロンに手を付けた。


「おとといの部隊長会議で書類には目を通した。小隊長として当然の職務だが……いろいろあるそうだ、隊長としては今すぐにでも発足させたいらしいが上層部の意向でしばらく先になるらしい」 


 それだけ言うと、カウラはメロンの皮をぎりぎりまでスプーンですくって食べていた。


「だろうな……残り二人は甲武から出るからな……近藤事件で甲武国海軍は人事どころの騒ぎじゃないだろうし上にも上の都合がある」


 かなめはそう言うと茶碗の飯を口に掻きこむ


「西園寺さん!他の二人の来る予定の人も知ってるんですか?」


 誠はまるで何も知らない自分を恥じながらそう尋ねた。


「まあな……一人はアタシの妹……のようなものだし」


「妹のようなもの?」


 かなめのあいまいな答えに誠はオウム返しで繰り返していた。


「言うな……アイツのことを思い出すと飯がまずくなる」


 そう言うとかなめはアジの干物をバリバリと食べ始めた。 


 こうなったらかなめは何も言わないのは誠も知っているので、静かに味噌汁を口の中に流し込んだ。


「その『少年兵』がここの露天風呂を使ってたということは、ここに泊まっているはずだが、今のところそれらしいのは居ねえな。朝飯は食わねえ主義なのか?」 


 周りを見渡し、納得したようにかなめは今度は煮物のにんじんを箸で口に運ぶ。


「別館なら完全洋式でルームサービスが出るだろ。そちらに泊まっているんじゃないのか」 


 カウラはそう言うとアメリアの残していったメロンをまたゆっくりと楽しむように味わっている。


「そう考えたほうが自然ですね」 


 誠がそう言うと、目の前に恨みがましい目で誠を見つめているかなめの姿があった。


「誠!テメエ、カウラの話だとすぐ同意するんだな!アタシが言うことにはごちゃごちゃ反論してくるのに!」 


 まるで子供の反応だ。そう思いながらもかなめの機嫌を取り繕わなくてはと誠は首を振った。


「そんなこと無いですよ……」 


 助けを求めるようにカウラを見たが、メロンを食べることに集中しているカウラにその思いは届かなかった。誠は空気が自分に不利と考えて鯵の干物を口に突っ込んで味噌汁で流し込んだ。


 かなめは相変わらず不機嫌そうで言葉も無い。そんな沈黙の中、誠は黙々と食事を続ける。


「ああ、私も先に行くぞ」 


 ゆっくりと味わうようにメロンを食べ終えたカウラが立ち上がる。かなめは顔を向けることも無く茶碗からご飯をかきこむ。誠はと言えばとりあえずメロンにかぶりつきながら同情するような視線のカウラに頭を下げた。


「やっぱりカウラの言うことは聞くんだな」 


 かなめは完全にへそを曲げていた。こうなったら彼女は何を言っても無駄だとわかっている。誠はたっぷりと皮に果肉を残したまま味わうことも出来ずにメロンを食べきって立ち上がる。


「薄情物」 


 去り行く誠に一言かなめがそう言った。誠も気にしてはいたがかなめの機嫌をとるのは無理だと思ってそのままエレベータコーナーまで黙って歩いていった。




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