表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第十七章 領主様への心遣い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/201

第73話 豪勢な部屋を後にして

「それにしてもいい天気だねえ」 


 新聞を手にしながら振り返った島田の後ろの大きな窓が見える。水平線と雲ひとつ無い空が広がっていた。


「神前、何度も言うけど腹減ったから俺達先に行くぞ」 


 そう言って島田が立ち上がる。菰田も併せて立ち上がると軽く屈伸をした。誠は振り返ってその後姿に目を向ける。


「すいません、先に行っててください。朝食を食べる場所もバスの中でパンフレットを見て覚えているんで」 


 そう言いながら島田を見送り、誠はジーンズを履いた。扉が閉まってオートロックがかかる。


「そうは言うけど……ちょっとは待っていてくれてもいいんじゃないかな……普通新人にはもう少し優しく接してくれても……まあ、あのヤンキーと性格破綻者には何を言っても無駄か」 


 とりあえずズボンを履きポロシャツに袖を通す。確かに絶好の海水浴日和である。誠はしばらく呆然と外の景色を眺めていた。


 島田を追いかけようと誠がドアに向かうその時、ドアをノックする音が聞こえた。ベルボーイか何かだろう。そう思いながら誠はそのまま扉を開いた。


「よう!」 


 かなめが立っている。いかにも当たり前とでも言うように。昨日のバーで見たようなどこかやさぐれたいつも通りのかなめだった。


「西園寺さん?」 


 視線がつい派手なアロハシャツの大きく開いた胸のほうに向かう。


「何だ?アタシじゃまずいのか?随分と偉くなったもんじゃねえか」 


 いつもの難癖をつけるような感じで誠をにらみつけてくる。気まぐれな彼女らしい態度に誠の顔にはつい笑顔が出ていた。


「別にそう言うわけじゃあ無いんですけど……」 


 誠は廊下へ出て周りを見渡した。いつもはこういう時はおまけのようについてくる同部屋のアメリアやカウラの姿は見えない。


「西園寺さんだけですか?本当に西園寺さんだけですか?」 


 その言葉にかなめは明らかに不機嫌になる。


「テメエ、アタシはカウラやアメリアのおまけじゃねえよ。連中は先に上で朝飯食ってるはずだ。アタシ等も行くぞ」 


 そう言うとかなめは振り向きもせずにエレベータルームに歩き出す。仕方なく誠も彼女に続いた。


 廊下から見えるホテルの中庭がひろがっていた。それを見ながら黙って歩き続けるかなめの後ろををついていく。


「昨日はすいません。僕、結構酔ってたみたいで……何か失礼なこととかしてないですよね?」 


 きっと何かとんでもないことでもしている可能性がある。そう思ってとりあえず誠は謝ることにした。


「は?何言ってんの?」 


 振り返って立ち止まったかなめの顔は誠の言いたいことが理解できないと言うような表情だった。


「だから言ってるじゃないですか、きっと飲みすぎて何か……やらかしませんでしたよね?」


 そこまで誠が言うとかなめは静かに笑いを浮かべていた。そして首を横に振りながら誠の左肩に手を乗せる。 


「意外としっかりしてたじゃねえか。もしかして記憶飛んでるか?アタシに言わせるとあれは飲んだうちには入らねえ程度だったけど……オメエがあの時間を覚えていねえのは少し残念かな」 


 エレベータが到着する。かなめは誠の顔を見つめている。こう言う時に笑顔でも浮かべてくれれば気が楽になるのだが、かなめにはそんな芸当を期待できない。


「ええ、島田先輩が言うにはかなりぶっ飛んでたみたいで……かなりあの二人を怒らせちゃって……しばらくは酒は禁止だそうです」 


 今朝の不機嫌な島田と菰田の顔を思い出しながら誠はかなめにそう言った。


「大丈夫だって!あの二人の言うことなんか気にするな。ごちゃごちゃ言うようならアタシが射殺する」 


 かなめがいつも通り無茶苦茶な論理を展開する。とりあえず彼女の前ではそれほど粗相をしていなかったことが分かり誠はほっとする。だが明らかにかなめは一度は島田達の事を怒っては見せたものの、誠の記憶が飛んでいたことが残念だと言うように静かにうなだれる。


「まあ、いいか。次も二人で飲みたい時があったら付き合えよ。それがアタシへの礼儀だ」 


 自分に言い聞かせるようにかなめは一人つぶやく。


「よろしくお願いします!」


 誠は元気よくそう返事をした。扉が開き、落ち着いた趣のある廊下が広がっている。かなめは知り尽くしているようにそのまま廊下を早足で歩いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ