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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第十四章 大浴場での『出会い』

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第54話 恐るべき『ヒンヌー教団』

「それじゃあ、僕は部屋に帰るんで」


 そう言うと西は菰田を置いて横にあった階段を上ろうとした。そんな西を羽交い絞めにする集団が突如現れた。


「野球部の荷物の整理がまだなんだ。西、部屋に帰る前にやっといてくれよ」


 西を取り押さえたのは菰田の取り巻きの整備班員の一人がそう言った。


「一応、着替えとか持ってるんで……後になりませんか?」


 お人好しの西にも都合と言うものがあった。着替えを置いてくるくらいの時間はあげては良いんじゃないかと誠も思っていた。


「お前は一番階級が下なんだ。だから今すぐやれ」


 五人の整備班員達の先頭に立った菰田が無情にも西にそう言い放った。


 誠は菰田のこう言う階級をかさに着て威張り散らすところもまた菰田の嫌いなところだった。


 西を取り囲んでいる五人の整備班員は整備班の中でも島田とはあまり反りの合わないメンツで、誠にとってはあまり関わりたくない連中だった。


『ヒンヌー教団』


 彼等、菰田一派のことを司法局実働部隊の隊員達はこう呼んだ。


 アメリア曰く『筋金入りの変態』と呼ばれる彼等は自ら『カウラ・ベルガー親衛隊』と名乗り、犯罪すれすれのストーキングを繰り返す過激なカウラファンである。


 出来れば係わり合いになりたくないと思っている誠だが、経理の責任者の菰田に提出する書類が色々とある関係で逃げて回ることも出来なかった。


 今回の旅行でも、本来は菰田は管理部長代理としての業務があるので休みが取れないところを、パートの責任者の白石さんに仕事を押し付けてやってきたほどのイカレタ人物である。


 他のヒンヌー教徒達も技術部内の主要なポストに付いているのでシュツルム・パンツァーのパイロットとしてどうしても話をしないといけない機会は多々あった。


 逃げようとしても逃げられない環境に珍妙な思想に染まった犯罪者すれすれの集団がいる。誠はその事実を彼らを目の前にして再認識すると同時に先ほどのアメリアの提案を受けていた自分がどうなるかを想像して恐怖した。


『ここでこの人達に出会うとは……これでカウラさんと風呂に入っていたら……本当に殺される』 


 菰田達の視線が誠には本当に痛く感じる。先ほどまでの事実を知らないから痛い程度で済んでいるのであってこれがその事実を知っているのであれば、鉄拳制裁の雨が誠に降り注いでいたことだろう。


「どうしたんだ?何か心にやましいことでもあるんじゃないのか?貴様の事だあの美しいベルガー大尉に迷惑をかけたに違いない。何をした?正直に吐け」 


 いぶかしげに黙って突っ立っている誠の顔を菰田が覗き込んでくる。悟られたらすべてが終わる。その思いだけで慌てて誠は口を開く。


「なんでもないですよ!なんでも!僕は一人で部屋にいて退屈だから風呂でも入ろうかと思って出てきたんです!じゃあ僕も風呂行こうかなあ……」 


 そう言うと誠はぎこちなく右手と右足を同時に出して歩き始めた。


「そっちはフロントだぞ」 


 ガチガチに緊張している誠を見る目がさらに疑いの色を帯びる。


「そうですか?仕方ないなあ……」 


 誠は逃げるようにして菰田達がやってきた露天風呂のほうに向かった。菰田達『ヒンヌー教徒』の目から逃れることができて、誠は漸く安心してほっと一息つくと窓の外の庭園に目をやった。


 窓越しに見える内庭の日本庭園を抜けて正面に見える風情のある数寄屋(すきや)作りの建物が露天風呂だった。


 女湯の中でははしゃぐ声がしているところから見て、まだブリッジの女性クルー達が入っているのだろう。誠は寂しさに耐えながら、静かな男湯の脱衣所に入った。


 ここもまた一流らしく落ち着いた木と竹で出来た壁面のかもし出す優雅なたたずまいを感じる脱衣所で服を脱ぎ、タオルを片手に風呂に向かった。



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