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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第十三章 危険な香りの甘い誘惑

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第50話 想像を絶する『お姫様専用』の部屋

 ゆっくりと扉が開かれる。誠は目の前の光景に驚愕して立ち止まってしまった。


 全面ガラス張りの壁の外側には広がる水平線が見える。誠はその光景の美しさに目を奪われた。


「これ、部屋なんですか?僕には部屋と言うより独立した別棟と言う感じに思えるんですが……」 


 誠は唖然とした。誠の『部屋』と言う概念を覆す光景が彼の目の前に広がっていた。


 その部屋は全面ガラス張りでその広さは誠がこれまで見たこういった空間の中では体育館の半分ぐらいの広さと言う表現しかできなかった。


 中央に置かれたのは誠があてがわれた部屋のキングサイズがかわいく見えるような巨大なベッドだった。その周りには金銀の刺繡が施された椅子やテーブルが数多く並べられている。


「まあ座れよ。ワイン取ってくる。アタシ専用のワインセラーがこの部屋の地下にあってね。ちょっと時間がかかるがすまん」 


 かなめはぶっきらぼうにそう言うと部屋の隅の大理石の張られた一面に触れる。壁が自動的に開いて、下へ向かう階段が現れた。かなめはそのまま迷うことなく自動的に点灯した明かりの中に消えていった。


「じゃあ、グラスは四つで」


 そう言うとアメリアは勝手にこれも正面のガラスに彫刻が施された巨大な食器棚の扉を開き、その中の数十と言うワイングラスの中から気に入ったものを選ぶと部屋の中央にあるこじんまりとした四人掛けのテーブルに並べた。


 誠とカウラはただ借りてきた猫のようにその様子を黙って見ていた。日が沈む前の赤い日差しが部屋を真っ赤に染め上げていた。


「それにしても遅いわね。地下のワインセラーってそんなに広いのかしら。飲む銘柄は決まってるのに……もう、まったくかなめちゃんはグズなんだから」


 かなめが居ないのをいいことにテーブルに備え付けのこれも刺繍に飾られた立派な椅子に勝手に腰かけたアメリアは、立ち尽くす誠とカウラに向けて手招きしながらそう言った。 


「アメリア。誰がグズだって?それにオメエに飲ませるとはアタシは一言も言ってねえぞ。それに人の許可なくアタシのものに触れるな。穢れる」 


 かなめはそう言うと年代ものと一目でわかるような赤ワインのビンを持ってくる。その表情にいつもにない自信のようなものを感じて誠は息を呑んだ。


「かなめちゃんと私の仲じゃないの。少しくらい味見させてよ」 


 アメリアが手を合わせてワインを眺めるかなめを見つめている。誠は二人から目を離し、辺りを見回した。どの調度品も一流の品なのだろう。穏やかな光を放ちながら次第に夕日の赤に染まり始めていた。


「ああ、この窓はすべてミラーグラスだからな。覗かれる心配はねえよ」 


 専用のナイフで器用に栓を開けたかなめがゆったりとワインをグラスに注いでいる。


「ワインの栓を抜く様は意外と様になるのね。さすが女大公殿下。手慣れていらっしゃる」


 かなめが自分の分も注いでくれている様子を見て、アメリアは嬉しそうにそう言った。 


「つまらねえこと言うと量減らすぞ。オメエに意地悪すると後で面倒だから飲ませてやるんだ。その分後で返してもらうからな」 


 そう言いながらも悪い気はしないと言うようにかなめはアメリアの方を見つめていた。カウラはじっとかなめの手つきを見つめている。


「カウラも付き合え。オメエが酒が嫌いなのは知ってるが、旨いワインは味と香りが違うんだ。テメエもパチンコばかりやってねえで少しは教養を身に付けろ」 


 最後のグラスにかなめがワインを注ぐ。たぶんワイン自体を飲んだことが無さそうなカウラが珍しそうに赤い液体がグラスに注がれるのを見つめていた。



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