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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第十一章 カオスとそれがもたらすもの

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第41話 アニソン祭り、始まる

「歌い終わりましたよ!次の方!」


 ほとんど棒読みであまり上手いとは言えない調子で『千の風になって』を歌い終えたひよこがマイクを掲げると、カウラはそのマイクを静かに受け取った。


「カウラさんが歌うんですか?何を歌うんです?」


 次第に吐き気に支配されつつある思考を何とかとどめようとしながら誠は絞り出すようにそう言った。


 カウラが歌を歌う。どんな選曲なのか。誠が想像するとすればカウラの趣味のパチンコの台になっているアイドル歌手のヒット曲かアニメの主題歌だった。


「歌うのは貴様だ。神前。バスの中でじっとしているから酔うんだ。歌でも歌って気分を変えればきっと酔わないに違いない」


 そう言ってカウラはすでに食道近くまで上がってきた胃液を押し戻そうと必死になっている誠にマイクを押し付けた。


「そうだな。カウラにしちゃあ良い考えだ。何歌う……ってオメエの歌うのはアニソンだろ?オメエはオタクだけどアイドルにはあんまり関心がねえって話だからな……あれだ、カウラ。最近パチンコで当たった台にアニメの台があるんじゃねえか?それを上官命令で歌わせろ」


 カウラとかなめの提案に確かにバスに対する恐怖心から車内でのカラオケなどしたことが無い誠はカウラが差し出すマイクを受取った。


「確かにそうかもしれませんね。じゃあ『マジカル美少女戦士パールちゃん』の第一期オープニングの『願いを込めて』お願いします!」


 あまり歌は歌わない誠だが、この歌だけはテンポが遅くて歌いやすいので歌うことができた。


「そのアニメの台は私が得意な台だ。『願いを込めて』は確変リーチの一回目に必ず流れる」


 誰が見ても明らかに弱っている誠の突拍子もない選曲に車内のアメリア以外の面々はあきれ果てた表情を浮かべた。ただ、その曲をテレビではなくパチンコ屋で覚えたカウラだけはいかにも楽しそうに手拍子をするために両手を顔の前に掲げた。


「そのアニメってアタシでも知ってるけど小学校の女の子向けのアニメじゃなかったっけ?そんなののパチンコ台もあるんだ……パチンコメーカーもよほどネタに困ってるんだな」


 本当にあきれ果てたという表情を浮かべてかなめはそう言ってカバンからラム酒の入ったフラスコを口にあてがう。


「かなめちゃんはやっぱり世間知らずのお姫様ね。あのキャラデザイナーは結構他の人気作も手掛けてるから『大きなお友達』に結構人気なのよ。当然そんな中のパチンコ好きを狙って台を作ったのよきっと。それに魔法少女好きな誠ちゃんならその曲で来るんじゃないかと思ってたわよ、私は。入れたわよ!」


 こちらもアニメには詳しいアメリアがカラオケの機械を操作する。


「じゃあ、皆さんは知らないかもしれないですけど僕の十八番なんで!」


 気が紛れてきて吐き気になんとか打ち勝った誠はそう言うと立ち上がって明るい局長のイントロに合わせて身体を動かした。


「やっぱり元気になってきたな」


 カウラは満足げにそう言うといきなり酒を飲み始めたかなめをとがめるような視線でにらみつけた。


「なんだよカウラ。文句あんのか?どうせアタシの歌える曲はカラオケに入ってねえんだから退屈しのぎだよ。それに神前が歌ったらたぶんアメリアが暴走してアニソンを連続して歌い始めるぞ。去年もそうだったじゃねえか。そんな退屈な時間、酒でも飲まずに過ごせって言うのか?」


 ラムの小瓶を片手にかなめは吐き捨てるようにそう言った。


「『ラブリー♪ラブリー♪チェンジ!マジカルチェンジ!』」


 誠はアメリア以外の知らないアニソンを声高らかに歌い始めた。誠は歌はあまり得意ではない。さらに声があまり高くないので、女性声優が歌い上げる高音にはついていけず、音痴丸出しで歌い始めた。


「下手だな」


 かなめはあっさりそう言うと手持ちのバッグを再び漁ってつまみのビーフジャーキーを取り出して口に運んだ。


「仕方がない。これで神前の気がまぎれるなら私はそれでいい」


 けなすかなめと自分を納得させるように囁くカウラはノリノリの誠の歌に合わせるように手拍子を打った。


「じゃあ私は何にしようかしら……。言っとくけど誠ちゃんの為だからね、私が連続で歌うのは」


 誠の調子はずれの歌を無視しながらアメリアは自分が歌う気満々だった。


「アメリアずるい!私も歌いたいのに!」


 選曲画面に映るアニソンを物色するアメリアにサラが抗議するように叫んだ。


「サラはデュエット曲しか歌わないじゃない。その相手の島田君は運転中よ。サラはカラオケ禁止!分かった!」


 月島屋に行くたびに嫌がる島田と一緒にカラオケでデュエットしているのが事実だけにサラは諦める。アメリアはそう踏んでいた。しかし、サラは諦めなかった。


「じゃあ、男性パートはパーラが歌って。パーラの声って結構ハスキーだから似合うと思うの」


 サラの突然の提案に話題の中心にされたパーラが慌てたように首を横に振る。


「そんなの嫌よ!アメリアが歌いたいって言うんだから歌わせればいいじゃないの!」


 おそらくパーラはサラとデュエットすればアメリアからこのことを理由に仕事中に色々面倒を押し付けられることの予想がついたのでそう言って断った。


「じゃあ、他の男子!それか特別ゲストの家村親子のデュエットで!」


 諦めの悪いサラはそう言ってバスの後方に目をやった。


 アメリアが自分のリサイタルを邪魔されれば何をされるかわからない。それを知っている野球部の面々はサラの言葉に沈黙で答えた。


「私達はゲストですもの。出しゃばったら悪いわ」


 春子もあっさりと断り、その隣の小夏はすでに寝息を立てていた。


「残念ね、サラ。じゃあこの曲が終わったら私が歌うから。誠ちゃん期待してていいわよ。私って結構歌には自信があるんだから」


 まだ歌い終わっていない誠に向けてアメリアがそう言って笑いかける。


「こんなことになるんなら耳栓持ってくれば良かったかな……ああ、耳栓は道路交通法違反か」


 誠の熱唱を迷惑そうな顔で聞いていた島田はそう言いながら渋滞の中、前のワゴン車の後ろをゆっくりとバスを走らせた。



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