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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第十一章 カオスとそれがもたらすもの

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第40話 背後に感じる異様な視線

 島田の運転でバスはそのまま菱川重工豊川の敷地を出て国道を走り、高速道路の料金所を抜けた。


「大丈夫ですか?誠さん。車酔いくらいの軽い症状だと私の『力』はあまり役に立たないんです。すみません」


 誠とカウラの前の席に座って本を読んでいたひよこが心配そうに振り向いてきた。


「ひよこちゃん。まだ大丈夫だよ……これから先はどうなるか分からないけど」


 強がってそう言う誠だが、流れる脂汗はもうすでに誠の『もんじゃ焼き製造マシン』としての機能が発動していることを示していた。


「つまらねえな……ギター持ってきてねえからアタシは歌わねえが……誰かカラオケでも歌えよ。付いてんだろ?このバスにもカラオケ。アメリアには付いてる奴を借りろって言っといたはずだぞ」


 退屈しているかなめはそう言ってバスガイドを気取って運転席の隣で立っているアメリアをにらみつけた。


「カラオケならあるわよ。でもかなめちゃんはあの昭和の女歌手の歌しか聞かないじゃない。どうせ歌なんて聞かずに酒を飲むか寝るかするんでしょ?まあいいか、じゃあマイクを回すわね。まずは一番近くのひよこちゃんから」


 アメリアはバスの前部に設置された引き出しからカラオケ用の無線マイクを取り出すと戸惑った表情を浮かべているひよこに手渡した。


 なぜかアメリアの気まぐれでカラオケの先頭バッターを任せられたひよこはマイクを握ると照れながら立ち上がった。


「私からですか……じゃあ失礼して……『千の風になって』をお願いします」


 ポエマーひよこの選曲に一同はげんなりした表情を浮かべた。


「ひよこちゃんもなんでいきなりそんな歌唄うのよ。人が死ぬ歌なんて縁起が悪いわよ。でもまあ、仕方がないわね……ああ、あったちょっと待っててね」


 ポエマーひよこの渋い選曲にアメリアは白けながらもカラオケの機械を操作した。


「そう言えばさっきから寒気が……普段は吐くことは有っても寒気がするなんてことは無いんですけど……」


 両手にマイクを持って歌いだしたひよこを見ながら誠はカウラにそう言った。


「寒気か……バスに乗る前には風邪をひいているような様子は見えなかったが……」


 心配そうな表情でカウラは誠の青ざめた顔を見つめている。


「そりゃあアイツ等のせいだ」


 誠の寒気の原因は分かりきっているという調子でかなめはバスの後部座席に座る一団を指さした。


 その指の指しているのは菰田邦弘曹長だった。その嫉妬に狂ったような怒りの表情と同じ表情を浮かべる整備班員数名が誠を呪うような視線でにらみつけている。かなめの指につられて振り返った誠は今見た異様な光景を見なかったことにしようと首を激しく振った。


「菰田の奴は何を怒ってるんだ?」


 カウラは不思議そうに周りを見渡す。かなめもパーラもサラもカウラの鈍感さに少し呆れながらため息をついた。


「『ヒンヌー教団』だ。奴等はカウラが奴等の天敵の神前の隣に座っていることが我慢ならねえんだ。だからこのバスが合宿場に到着するまで神前の寒気はおさまらねえ」


 かなめは誠の不幸を笑い飛ばすようにそう言うと手荷物のバッグの中を漁り始め、おそらくラム酒が入っているだろうフラスコを取り出した。


「西園寺さんひどいこと言わないでくださいよ。あの視線……今日一日続くんですか?勘弁してくださいよ」


 だんだん上がってくる吐き気に加えて呪いのもたらす寒気にまで襲われることを決定事項として宣言された誠は力なくうなだれた。



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