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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第十章 『駄目人間』は裏で動く

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第36話 能天気な連中を見送る大人達の会話

「若者達はいいねえ。野球部の合宿か。俺も最初の試合までは呼んでくれたのにな。ファーストの守備なら自信あるんだ。俺も神前と同じ左利きだから」


 窓の外を隊の敷地から出て行くバスを見送りながら嵯峨は恨めしそうにそう言った。


「その試合でファーストの守備中にタバコを吸って、リーグから永久追放食らったんだったな。馬鹿だよなー隊長は」 


 隊長席でのんびりとタバコをふかしながら、嵯峨は窓を開けて身を乗り出すようにして通用門に向かうバスを眺めていた。その背中で仕事をさぼって合宿に行きたがる上司に対し軽蔑を込めた言葉をランはぶつけた。


「ラン。お前も行けばよかったのに。お前さんは俺と違って野球部の名誉監督で行く資格はあるんだ。そのうち騒がしくなったら遊びにも行けなくなるぜ」


 振り向いた嵯峨の一言にランはめんどくさそうに口を開く。


「確かにそうなんだけどよー……隊長がまだ出すなって言ってる『近藤事件』のオープンにできる報告書の方の直しが有ってな。それにアタシまでここを空けたら面倒なことが起きた時、誰が対応するんだよ」 


 ランはソファーに腰掛け、隣に立っている司法警察と同規格の制服を着た女性を見やった。黒いセミロングの髪の女性は、胸の前で手を組み、立ったまま嵯峨の様子を覗っている。


秀美(ひでみ)さん、とりあえず腰掛けたらどう?汚いところだけどさあ……」 


 嵯峨は窓のサッシに寄りかかりながら笑顔でそう言って見せる。


「服が汚れるから止めておくわ。嵯峨さん、整理整頓と掃除は仕事の基本じゃないの?最後に子のソファーを拭いたのはいつかしら?」 


 やわらかい笑顔を浮かべながらこの『特殊な部隊』の隊員とはどこか毛色の違う雰囲気をまとう安城秀美(あんじょうひでみ)少佐はそれを断った。


「そうだな……ラン、西の奴が暇な時に頼めるようになんとかならないかな」


「テメーの部屋ぐらいテメーで掃除しろ!『駄目人間』」


 ランはそう言って嵯峨の指示に対して罵声で答えた。


「掃除は苦手なんだよなあ……そうだ!茜が今度ここに来るから茜に頼もう!」


 静かだが明らかに軽蔑したような安城の視線に嵯峨が身をすくめる。


「いい大人なんだから、娘さんに頼るのもいい加減にしたら」


「秀美さんも厳しいなあ……それを言われると俺もぐうの音も出ないよ」


 嵯峨は照れながらそう言った。安城は立ったまま困った子供を見守る母親のような視線を嵯峨に向けた。


 司法局の正規の特殊部隊である公安部隊隊長の安城秀美はそんな視線を向けながらも、自分が一番頼りにしているのが目の前にいる嵯峨である事実を思い出して苦笑いを浮かべた。



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