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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第四十六章 新しい日々

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第196話 混沌からの脱出

「それじゃあ僕は準備があるので」 


 誠は身の回りの物を取りに行こうと立ち上がった。


「準備だ?オメエいつもそんな格好で出勤してくるじゃねえか……。とりあえず玄関に立ってろ」 


 そう言ってかなめは自分が運転するわけでもないのに命令口調で誠にそう言った。


「でも財布とか身分証とか……」 


 財布無しでは昼の弁当も買えないし、身分証が無いと『特殊な部隊』がある菱川重工豊川の敷地に入れない。


「じゃあ早く取って来い!急げよ」 


 かなめに怒鳴られて、誠は一目散に部屋へと駆け出した。


「大変そうですねえ」 


 階段ですれ違った西がニヤニヤ笑っている。


「まあな、こんな目にあうのは初めてだから」 


「そりゃそうでしょ。島田班長が結構気にしてましたよ」 


 そう言うと西はいかにも誠の一挙手一投足に関心があるというように誠の部屋の前までついてくる。西を部屋の前で置き去りにして中に入ると誠は戸棚から財布と身分証などの入ったカード入れを取り出した。さらに携帯端末を片手に持つとそのまま部屋を出た。


「なんだよ、まだついてくるのか。別に面白くも無いぞ」 


「そうでもないですよ。神前さんは自分で思ってるよりかなり面白い人ですから」 


 西が底意地の悪そうな笑みを浮かべていた。他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。そんなことを考えながら誠はかなめの機嫌を気にして廊下を駆け下りる。


「そう言えば昨日……」 


 ついてきているはずの西を振り返る誠だが、誠を見飽きたというように西は自分の携帯電話に出ていた。


「ええ、今日はこれから出勤します。島田班長が気を使ってくれてるんで、定時には帰れると思いますよ」 


 西は最高にうれしいことが起きたというように明るい調子で続ける。誠は声をかけようかとも思ったがつまらないことに首は突っ込みたくないと思い直してそのまま玄関に向かった。


「なんだ、早かったな」 


 声に気づいて振り向けばカウラが立っている。普通の隊員は隊で着替えるはずなのだが、彼女は東和軍の夏季勤務服の半袖のワイシャツ、そして作業用ズボンという奇妙な格好をしていた。


「何か気になることでもあるのか?」 


 カウラはいかにも不思議そうに尋ねてくる。おしゃれなどには関心のないカウラらしいと言えばそれまでだが、定時前に制服を見せられて誠は少し食傷気味だった。


「その格好でいつも……」


「そうだが、気になることでもあるのか?」


 カウラはそう答えると玄関の下駄箱から革靴を取り出す。


「相変わらずおしゃれなんてどうでも良いって格好じゃないの、カウラちゃん。私服とか持ってないの?」 


 声の主、アメリアの方を振り向いて誠は後悔の念に抱かれた。そこには誠も見ている深夜アニメのファンシーなキャラクターのTシャツを着たアメリアが歩いてくる。


「貴様の方がよっぽど恥ずかしいと思うが」 


「大丈夫、見る人が見ないとわからないから」 


 確かにそのキャラクターが実はヤンデレで最終回に大虐殺を行う内容だったために打ち切りにされたアニメのキャラだと言うことは一般人は知らないだろう。誠はそう思いながら得意げなアメリアに生ぬるい視線を送る。


「お前等、本当に頭ん中大丈夫か?」 


 タンクトップにジーンズ。ヒップホルスターに愛用の銃を挿したかなめが笑う。かなめもアメリアも、そして誠も唖然としながら彼女が寮を出るのを見送った。


「ちょっと待ちなさい!かなめちゃん!」 


 アメリアがかなめの肩をつかむ。そしてすばやく拳銃を抜き取った。


「かなめちゃんもしかしてこのまま歩こうとしてない?」 


「だってアタシ等コイツの護衛だぜ?銃の一挺くらい持っているのが……」 


「だからって抜き身で持ち歩くな」 


 カウラの声で渋々かなめはアメリアに銃を任せた。アメリアは手にしたバックに銃を入れる。


「これからはこう言うものを持ち歩きなさい」 


 アメリアは手にしたブリーフバックを指し示した。その重そうな持ち方から見て、彼女の愛用の拳銃P7M13ピストルが入っていることは間違いないと誠は思った。


「それじゃあ行くぞ」 


 銃を奪われたもののアメリアの言いたいことはよくわかるので、かなめは黙って遼の玄関を出る歩き始める。夏の日差しはもうかなり上まで上がってきていた。アメリアは通り過ぎる猫を眺めながら取り出した扇子を日よけ代わりにしている。


 寮の駐車場は半分ほどが埋まっていた。今の時間に止まっているのは夜勤か遅番の隊員の車が大半である。ここまできて自分のバイクで出勤しますとはいえない状況に誠は運転するだろうカウラを見つめていた。




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