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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第四章 縁の下の力持ちのおばちゃん達

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第19話 頼りになる白石さん

「そう言えば、白石さんは島田先輩が言うには、隣の工場長にも顔が効くんですよね。凄いですね、それって。工場長って偉い人でしょ?それがパートの人の言うことを聞いてくれる……それだけ頼りにされていたんですね」


 誠は島田に聞かされた話を思い出して白石さんをそう褒めるしかなかった。


「凄くないわよ、全然。今の工場長は良い人だから。本来あんな偉い人が一パートの言うことを聞いてくれるなんて他の工場じゃ考えられないわ。よく気が利くし、体も引き締まって渋いロマンスグレーの髪も素敵だし、私の理想の上司。もし私が若いころに出会ってたら恋に落ちてたかも」


 白石さんは笑いながら工場長の偉さをそう讃えた。誠はその話を聞いて、『駄目人間』上司の嵯峨惟基との差を思い出してその工場長に会ってみたくなった。


「工場長なんだけど、元々は大学野球の推薦でここの野球チームのサードとして入ったのよ。入った当時はそれはもう凄かったのよ。それこそプロのスカウトやマスコミがこの工場の入り口に押しかけて大騒ぎ。入社当初からその年のドラフトの有力候補ってことで注目されちゃって……それでも、その時は仕事は新入社員として経理の手伝いをしていたんだけど、そっちの方も完璧で……こんな人いるんだなあって驚かされたわ」


 白石さんの工場長との付き合いは工場長の入社直後から始まるらしいことに誠は驚かされた。そして、野球だけではなく社会人としても見どころのある青年と周りから思われていた工場長と『特殊な部隊』で『もんじゃ焼き製造マシン』としてか、『ツッコミ』としてしか役に立っていないと思われているらしい自分と比べて少し憂鬱になった。


「そんなすごい選手だったんですか?それに仕事も完璧……スーパーマンだ」


 誠も高校時代『都立の星』としてプロのスカウトやマスコミの取材を受けたことが有ったがそれもポチポチと言う感じでマスコミで騒がれる都市対抗野球のスター選手のそれはまるで違うものであろうと想像することができた。


「でも、都市対抗が終わってすぐの練習で右足に大怪我して守備ができなくなったとなると……冷たいものよね、プロの世界は。それからは野球部でも指名打者で出てたんだけど、守備をしていた時の感覚が無いとバッティングの調子もつかめないってことで三年で社業に専念するってことで引退したの」


 白石さんは心から人に共感できる人らしい。工場長の当時の悲しみを再現して見せる口調から誠はそう感じていた。


「でも、それからはやっぱり一流は違うわね。本社の法人営業部に転属になっても話題の豊富な営業マンとして出世街道を驀進して、四年前にここの工場長になって戻ってきたわけ。取締役執行役員でもあるのよ……ああ、神前さんはそう言う社会常識はゼロなんだったわね。ごめんね、難しいことを言って」


 そう言って白石さんはおばちゃんらしい大笑いをした。誠の社会常識ゼロと言う事実は誠が挨拶に来ていなかった管理部にまで知れ渡っていた。


「でも白石さんのおかげで工場長がうちに便宜を図ってくれているんですよね。凄いですよそれは。島田先輩が頼んだ面倒な部品の加工とかをすぐにやってくれるって感謝していましたよ」


 社会常識のことで馬鹿にされることには慣れているので、誠は無視して白石さんを持ち上げた。


「偉いのは私じゃないわよ。工場長よ。おかげで島田君達の技術研修の資材とかの手配もしてくれるし、シュツルム・パンツァーのメーカーメンテナンス技術者とはいつでも連絡できるように便宜を図ってくれているもの」


 白石さんは謙遜して手柄を工場長のものだといった。


「隣の工場ってシュツルム・パンツァーを作ってるんですか?もうそんな大きいものは作ってないと聞いてたんですが……」


 白石さんが『シュツルム・パンツァーの技術者』と言う言葉を吐いた時に誠はこれまでランから聞いていた隣の工場がすでに『終わった工場』だというイメージを塗り替えなければいけないような気がしてきていた。


「『05式』は菱川重工豊川が兵器工廠としての最後の技術を結集して開発した機体だもの。確かに他の新しい工場のエリートの技術者の作った汎用性の高いシュツルム・パンツァーと比べると、局地戦に特化したその設計は評価が低くて量産化なんて見込めない代物になってしまったけど、ちゃんと司法局実動部隊では戦果を挙げている。『近藤事件』でのこの部隊の活躍を聞いて工場長も鼻が高いんじゃないの?」


 意外にシュツルム・パンツァーの性能に関する勉強までしている白石さんに誠は驚きを隠せなかった。


 島田達のお遊びからシュツルム・パンツァーの運用まで。すべてのことが白石さん無しには動くことが無い。


 誠はその事実を知って目の前にいるどこにでもいるおばちゃんのように見える白石さんに尊敬のまなざしを向けた。


 その時、昼休みの終了を告げるチャイムが部屋中に鳴り響いた。


「じゃあ、お仕事しましょう。神前君も午後の体力トレーニング、頑張ってね」


「はい!一生懸命走ります!」


 誠は白石さんの応援を素直に受け取って、午後に始まる体力トレーニングのランニングの準備の為に男子更衣室へと急いで向かった。




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