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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第四十五章 午後の引っ越し作業の続き

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第188話 欲望と呼ばれる部屋

「じゃあこれを『図書館』に運びましょう!」 


 昼食を終えたアメリアが誠達一同に声をかけてつれてきたのは駐車場の中型トラックの荷台だった。


「図書館?」 


 誠は嫌な予感がしてそのまま振り返った。


「逃げちゃ駄目じゃないの、誠ちゃん!あの部屋、この寮の欲望の詰まった神聖な隠し部屋よ!」 


 そんなことを口走るアメリアの言葉には情熱があふれていた。


「あそこですか……」 


 あきらめた誠が頭を掻く。確かにアダルトゲームに造詣の深いアメリアならあの部屋に持ち込むゲームの数は相当な量になることは誠にも想像がつく。純情であまり『図書館』には近づかない西はそわそわしながらアメリアを見つめた。


「クラウゼ少佐。図書館や欲望って言われてもぴんとこないんですけど」 


 ひよこは明らかに戸惑った様子でアメリアを見つめていた。


「それはね!これよ!ひよこちゃんは純粋だから表紙しか見ちゃだめよ。西君も男なんだからこれから逃げちゃダメ!ちゃんとお姉さんが良いのを選んであげるから!」 


 そう言ってアメリアはダンボールの中から一冊の冊子を取り出してひよこに渡す。ひよこはそれを気も無く取り上げた次の瞬間、呆れたような表情でアメリアを見つめた。絡み合う裸の美少年達の絵の表紙。誠は自然と愛想笑いを浮かべていた。


「わかったんですが……その……あの……」 


 いきなりボーイズラブモノの成人漫画を見せられてひよこは顔を真っ赤に染めた。誠は日中からそのような本を純情なひよこに見せているアメリアに冷ややかな視線を送った。


「誠ちゃん。なによその目?まるでアタシが変態みたいじゃないの」 


 アメリアはそう言って他にも冷たい視線を投げてくる周りの人々に自分の主張を叫んだ。


「いや、みたいなんじゃなくて変態そのものなんだがな。そう言う趣味があっても普通は隠れて人のいないところで見せるもんだ。天下の往来でそんなことをやるな。時と場所を考えろ」 


 後ろからかなめが茶々を入れる。アメリアは腕を組んでその態度の大きなサイボーグをにらみつける。


「酷いこと言うわね、かなめちゃん。あなたに私が分けてあげた雑誌の一覧、誠ちゃんに見せてあげても良いんだけどなあ。あれはかなり変態性の高い作品だったわねえ……女性上位のM男調教物の……」


 アメリアはそう言いながら自分のコレクションの乗せてあるトラックの荷台に向って歩き始める。 


「いえ!少佐殿はすばらしいです!さあ!みんな仕事にかかろうじゃないか!」 


 かなめのわざとらしい豹変に成り行きを見守っていたサラとパーラが白い目を向ける。かなめが『女王様』でドSの変態性の持ち主なのは誰もが知っている事なので、とりあえずと言うことで、ひよこと西が表情も変えずにダンボールを抱えて寮に向かった。


「そう言えば棚とかまだ置いてないですよ……昨日部屋にあった奴は壊れていて使い物にならないから全部処分しちゃいましたし」 


 一際重いダンボールを持たされた誠がなんとか持ちやすいように手の位置を変えながらつぶやく。左右に揺れるたびに手に伝わる振動で誠は中身が雑誌の類だろうということが想像できた。


「ああ、それね。今度もまた島田君とサラに頼んどいたのよ」 


 こういう時は段取りの良いアメリアがさもそれが当然と言うようにそう言った。


「アイツ等も良い様に使われてるなあ。アメリア、二人のどんな弱みを握ってる?教えろ。後でアタシもそれを利用して楽をする」 


 誠の横を歩くかなめはがしゃがしゃと音がする箱を抱えている。そしてその反対側には対抗するようにカウラがこれも軽そうなダンボールをもって誠に寄り添って歩いている。


「これは私から寮に暮らす人々の生活を豊かにしようと言う提言を含めた寄付だから。かなめちゃんもカウラちゃんも見てもかまわないわよ」 


 『図書館』を自分の趣味に染め上げることが寮の発展に繋がると信じ切っている表情がアメリアの顔には浮かんでいた。


「私は遠慮する」 


 即答したのはカウラだった。それを見てかなめはざまあみろと言うように手ぶらで荷物持ちを先導しているアメリアに向けて舌を出す。


「オメエの趣味だからなあ。ここの野郎共の変態性がさらに高まるぞ。まあ、アメリアを襲う物好きはいねえか。おばさんだもんな」


 かなめはそう言ってアメリアにとってのNGワード『おばさん』と言う言葉を口にした。 


「誰がおばさんですって!二歳しか違わないじゃないの!」 


「その二歳が重要なんだよ!なあ、三十路」 


 かなめが反論するアメリアにさらに追い打ちをかける。そんな二人を見て噴出した西にかなめが蹴りを入れた。


「まあ、馬鹿はこれくらいにして。階段よ!気をつけてね」 


 すっかり仕切りだしたアメリアに愚痴りながら誠達は寮に入った。


「はい!そこでいったん荷物を置いて……」 


 アメリアは指示を出すばかりで自分のコレクションを自分で運ぼうと言う気配は感じられなかった。誠はそこがいかにも容量だけは良いアメリアらしいと思いつつ良いように使われている自分を恥じた。


「子供じゃないんですから。言われなくともわかります」 


 先頭を歩いていたいつもは穏やかなポエマーひよこがそう抗議するように言いながら手早く靴を脱ぐ。西の段ボールから落ちた冊子を拾ったカウラが真っ赤な顔をしてすぐに、西の置いたダンボールの中にもどしてしまう。


「二階まで持って行ったあとどうするんですか?まだ棚が届かないでしょ?それまで部屋に段ボールのまま積み上げとくんですか?」


 誠は作業が速すぎるような気がして段取りだけが取り柄のアメリアにそう尋ねた。 


「仕方ないわね。まあそのまま読書会に突入と言うのも……」 


 さすがのアメリアもそこまで考えていなかったらしくごまかすようにそう言った。


「こう言うものは一人で読むものじゃねえのか?アタシは……いや、何でもない。聞かなかったことにしろ」 


 そう言ったかなめにアメリアが生暖かい視線を送る。その瞬間アメリアの顔に歓喜の表情が浮かぶ。


「その、あれだ。恥ずかしいだろ?」 


 自分の言葉に気づいてかなめはうろたえていた。


「何が?別に何も私は言ってないんだけど」 


 アメリアは明らかに勝ったと宣言したいようないい笑顔を浮かべる。


「いい、お前に聞いたアタシが間抜けだった」 


 そう言うとかなめは誠の持っていたダンボールを持ち上げて、小走りで階段へと急ぐ。


「西園寺さん」 


 声をかけると後ろに何かを隠すかなめがいた。


「脅かすんじゃねえよ」 


 引きつった笑みを浮かべるかなめの手には一冊の薄い本が握られていた。誠はとりあえず察してそのまま廊下を走り階段を降りた。


「西園寺は何をしている?」 


 突然姿を消したかなめを不審に思ってカウラは誠にそう尋ねた。


「さあ何でしょうねえ……トイレじゃないですか?」 


 先頭を切って上がってくるカウラに誠はわざとらしい大声で答えた。それが人情と言うものだ。誠にはそう思えた。二階の廊下に二人がたどり着くと空き部屋の前にはかなめが薄い本を立ったまま読んでいるのが目に入る。


「西園寺、サボるんじゃない!」


 事態を理解していないらしいカウラがそう言ってかなめから薄い本を取り上げた。そこには荒縄で縛られた女性を鞭打っている『女王様』の女性が描かれている。


「その……なんだ……このことは忘れろ」


 かなめは珍しく気弱な調子でカウラと誠に向けて懇願するようにそう言った。



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