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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第四十四章 地球からの監視者

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第187話 合衆国も危惧する『廃帝』の存在

「まあ、急ぐ必要は無いさ。それに今のところ嵯峨惟基も彼の選んだ戦力も合衆国の目の届く範囲内にいる。もし動きがあるとすれば『廃帝』が動き出してからだろうね」 


 『廃帝』が動き出すと言う言葉を聴いて、三等武官は眉をひそめた。


「言いたいことはわかるよ。一昨日早速『廃帝』の手のものがマコト・シンゼンにそれなりの法術師を使って襲撃をかけたと言う話じゃないか。しかし、あれは挨拶位のものなんじゃないかな。これまでの『廃帝』の動きは君が予想しているよりもかなり広範囲にわたっている」 


 クリタ少年はそう言うと棒についたアイスをかじり始める。


「しかし、本当に存在するのですか?『廃帝』は……私に言わせると……存在自体があり得ない……アメージングだ」 


 願望を込めた口調でそう言って見せる三等武官にクリタ少年は微笑みを返した。


「そうでなければ嵯峨と言う男は『法術』の存在の公表と言うジョーカーを切る必要は無かっただろうね……そもそも法術師の存在自体が地球科学ではありえない話なんだから仕方ないね……ただ『廃帝』は存在している。それ以上のことは言えないね僕からは。詳しいことは本国の研究所の偉い人に聞いてよ。僕も自分が『廃帝』の『抗体』であること以外の知識はおじさんと大して変わらないんだ。ごめんね」 


 言っていることは物騒な武装組織の話だというのにその表情は子供だ。三等武官は思った。状況を楽しんでいる。まるでゲームじゃないか。そんな言葉が難解も頭をよぎる。


「それを知る権限は私には有りませんよ」 


 三等武官の言葉に野球帽の唾をあげて少年は答えた。


「じゃあ、話はここまでだ。僕は嵯峨惟基のコピーだからね。しかも、合衆国が『最強の法術師』である彼を壊す前のコピー。つまり、僕が最強なんだ」 


 そう言うと、少年はそのまま三等武官の乗る車から離れた。


「『僕が最強』ねえ、クリタ中尉。その幼さがある限り君は『最強』には成れないよ」


 三等武官はあまりに自分の能力を過信している少年に一抹の不安を覚えた。


「研究所の人がそう言うんだから間違いないよ。『廃帝』がもし僕の存在を知ったら、その野望を中断して地下に潜るくらい僕は強いって……所詮、力のないおじさんには分からないかな?」


 馬鹿にした口調で少年はそう言った。


『所詮は『陸軍実験部隊』の研究員の言うことを鵜吞みにしているだけか……子供だな』


 三等武官は少年が実際に『廃帝』への対抗手段として機能するのか不安に思えてきた。


「それにしても早く会いたいな……マコト・シンゼン。彼はそれほど強くない法術師だ。それがどうして『廃帝』への対抗手段として選ばれたのか……会えばきっと分かるとおもうんだ。じゃあ、事務所に帰るから。何か動きが有ったら教えてくれると嬉しいな」


 悠然と立ち去る少年の後ろ姿に畏怖の念を抱きながら、三等武官はその視線を下士官寮へと移した。


「マコト・シンゼン……ことの始まりか……『廃帝』の野心に地球を巻き込むのはやめてくれると助かるんだが……『廃帝』が彼の野望に地球圏を巻き込まないと約束してくれれば俺は国に帰れる」


 三等武官は先ほどの少年の冷たい視線を思い出して背筋を凍らせながら何も起きることの無いであろう経年劣化の目立つ寮をただ眺めていた。




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