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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第三十九章 女大公殿下の住まいへの道

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第164話 遼州同盟の内部事情

「鍵、開けましたわよ」 


 自分のバイクを島田のバイクの隣に置いたまま部品の山を見ていたかなめが茜の言葉に振り返ると、そのまま助手席のドアを開けて乗り込んだ。


 誠は茜の乗るセダンの高級車に少しばかり遠慮がち乗り込み、慣れない雰囲気に流されるようにして後部座席に座った。茜は運転席で何か足を動かしているように見えた。


「まじめだねえ、やっぱり履き替えるんだ」 


 かなめは先ほど茜が自分を『法律の専門家』と自称した通り、交通供促を守るその順法精神に感心していた。


「司法に身を置く人間としては当然のことではなくて?」 


 そう言うと茜はキーを入れる。高級車らしい落ち着いたエンジンの振動が始まる。緩やかに車はバックして、そのまま空きの多い下士官寮の駐車場から滑り出した。


「かなめさん。お話があるでしょ?」 


 目の前を見つめながらハンドルを操る茜の手を軽く見やった後、かなめは頭の後ろに両手を持ってきて天井を見上げた。


「まあな……」 


 エアコンが強力に吹きつけて熱気を次第に奪っていく。室温は次第に快適な温度へと近づいていった。


「オメエが腰を上げたってことはだ、それなりにやばい連中が動き出したと考えていいんだな」 


「ずいぶんとかなめさんにしては遠まわしな聞き方ね。それに昨日から同じような質問ばかり。少しはご自分で動いてみたらいかが?その義体の通信機能を使いこなせれば私よりも新鮮な情報が手に入りますわよ」 


 茜は大通りに出るべくウィンカーを右に点灯させた。宅配便のトラックが通りすぎたのを確認して、左右に人影が無いのを確認するとそのまま車を右折させた。


「何度だって確認したくなるさ、昨日みたいな法術適正者、それもかなりの格の奴がアタシ等の周りをうろちょろしてる状況なのはわかりきっているんだから」


 誠は自分を襲撃した自称『革命家』の言うことを思い出した。


「法術犯罪専門の同盟機構直属の捜査機関の設立理由としてはそれで十分ではなくって?」 


 茜の口元に浮かぶ笑み。それを見て誠は甲武四大公家の当主である嵯峨の娘の茜もまたの上流貴族の一人娘であると言う事実を思い出した。


「そうとばかりは言えないぜ。確率論的に法術適正のある人間なんてそうはいない。それなりの組織としてもあれほどの法術使いをそう大量に抱えているとは思えない。そうなるとそうちょくちょく襲撃するのはリスクが大きすぎることくらい連中も知ってるはずだ。それにこちらもアタシ等が護衛につく。昨日のギャンブルじみた襲撃があったとしてもこちらは上部組織に連絡するくらいの対応は出来るんだ」 


「そうなると?」 


 前の車の減速にあわせてブレーキを踏む茜は決して後ろを振り向こうとしない。それにいらだっているように語気を荒げながらかなめは言葉を続ける。


「叔父貴やランの姐御が動き出せば奴等にとってはやぶ蛇のはずだ。あの化け物共の相手が勤まる奴はそうは居ねえ……昨日のアロハも茜を見たらすぐに踵を返しやがった……藪蛇だったと分かったんだろ」 

 

 そう言うとかなめは今度は手をダッシュボードの上に移す。


「そうおっしゃるけど、法術の存在が公になってしまった今ではどのような事態が起きたとしても……」 


「それにしちゃあ、ずいぶん控えめな対策じゃねえか。確かに東和警察でも法術犯罪捜査部隊が一都三県で発足した。甲武の公安憲兵隊も法術対策室を立ち上げて人員の選定をすすめている……東和共和国が動いて同盟が動かない……どう見てもおかしいじゃねえか」 


 かなめは分からないことだらけだと言うように茜にそう愚痴った。


「そうね、でも東和の反応は迅速だわ。どうせお父様が事前に幹部連に情報をリークしていたんでしょうけどそうでなければこの国はそう簡単に動かない。この国に住むようになって感じたのはその判断スピードの遅さだと私は思ってますの」 


 茜はまったく動じない。ただ前を見てハンドルを切る。


「ハンイル、遼、遼北、西モスレム、ゲルパルト、外惑星。どこもそれなりに国家警察レベルではそれなりの対応をしている……そのくせ同盟機構自身が……後手に回ってねえか?」 


 ここでかなめは言葉を飲み込んだ。茜のポーカーフェイスがいつまで続くか試している。誠はかなめのの言葉選びにそんな印象を受けた。


「同盟司法局の専任捜査員の数が二桁行かないってのはどういうことだ?中途半端過ぎるだろ。各国の国益優先の人材配置が行われているのは百も承知だ。現状を作り出したのが叔父貴の独断専行なのもわかってる。だけどそんな中途半端な専従捜査員、そしてテメエみたいな野良の弁護士上がりが指揮を執る。そんな部隊を作ったところでなんになるよ」 


 かなめは抱えていた疑問を吐きつくしたとでも言うようにポケットからガムを取り出して噛み始めた。


「確かに人材の配置転換が始まって法術適正者の選抜が行われているけど、どの同盟加盟国でも軍、警察、その他各省庁の実働部隊までしか適性検査を行えない段階ですわよ。それだけの数の分母で適正者がそうたくさん出てくると考えるのがおかしいんではなくって?それにあくまで彼らはそれぞれの国や地方自治体の内部での犯罪捜査や事件対応が優先事項ですわ。その枠を超えての捜査となれば直接動くメンバーよりは少数の調整役を用意したほうが効率的ですわね」 


「まあ……国際的テロリストを相手にするときに法術師やその知識を十分に持っている調整機構が指揮監督するのは賢いやり方だとはわかってるよ。それにより多くの訓練や人材発掘のノウハウを獲得するには各国で行われている適性検査や訓練の情報を統括する組織があったほうがいいのは百も承知だ」


「なら問題は無いんじゃないですの?」 


 茜は彼女の父親、嵯峨惟基とよく似た舐めたような表情を浮かべる。その態度にかなめの言葉はさらに強い調子になる。


「法術師の総本山の遼帝国。あそこにオメエのコネはあるのか?あそこの近衛師団辺りなら教官が務まる人材もいるんだろ?そいつの予定を抑える仕事をした方がこんな都会の片隅でつまらねえ事件を追うことになるより生産的だろ?」 


 バイパス建設の看板が並び、中央分離帯には巨大な工作機械が並んでいる。車は止まる。渋滞につかまったようで、茜は留袖を整えると再びハンドルを握った。


「遼帝国宰相ブルゴーニュ侯はお父様とは犬猿の仲なのはご存知でしょ?遼が人材の出し惜しみをしているのは事実なのよ。正直なところ内戦中の敵対関係を未だに清算できないでいるブルゴーニュ侯の意趣返しですわね」 


 前の砂利を積んだトラックが動き出す。茜は静かにアクセルを踏む。


「つまらねえことを政局に使いやがって!叔父貴も叔父貴だ、司法局が舐められてるのは発足以来のことだって納得しているのかね。まあそれはいいや」 


 かなめはタバコに手を伸ばそうとしたが、鋭い茜の視線にその右手は宙を舞った。



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