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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第三十八章 新たなる日常の予感

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第158話 付け加わる新たな『任務』

「かなめさん……いや、西園寺大尉」 


 茜は視線を畳から座り込んでいるかなめに向ける。


「なんだよ」 


 突然の茜の正座に不思議そうにかなめが応える。


「皆さんには私達、法術特捜の予備人員として動いていただくことになりましたの。このくらいのお手伝いをするのは当然のことでなくて?」 


 沈黙する部屋。かなめはあきれ返っていた。誠はまだ茜の言葉の意味がわかりかねた。


「そんなに驚かれること無いんじゃありませんの?法術に関する公式な初の発動経験者が現場に出るということの形式的意味というものを考えれば当然ですわ。テロ組織にとって初の法術戦経験者の捜査官が目の前に立ちはだかると言う恐怖。この認識が続いているこの機に法術犯罪の根本的な予防の対策を図る。このタイミングを逃すのは愚かな人のなさることですわ」 


 茜はさすが弁護士上がりと思わせるほどの説得力でかなめにそう説いた。


「そりゃあわかるんだよ。あんだけテレビで流れたこいつの戦闘シーンが頭に残ってる時に叩くってのは戦術としちゃあありだからな。でも……」 


 かなめは不思議そうな顔で覗き込んでくる茜の視線から逃れるようにうなだれた。


「ということはカウラさんも入るんですか?」 


 今度は窓を拭きながら誠が尋ねる。


「当然ですわ。あの方には小隊をまとめていただかなくてはなりませんし」 


 そう言うと茜は再び良く絞った雑巾で丁寧に畳を撫でるように拭く。


「結局、アイツの面を年中拝むわけか」 


 かなめは少しうんざりしたような笑みを浮かべるとタバコの煙を吐いた。


「他にも本人の要請でアメリアさんも状況分析担当で編入予定ですわ」 


 しばらく茜の言葉にかなめはせき込んでタバコの煙を吐き出した。しばらくしてその目は楽しそうに自分を見つめている茜へと向けられる。


「まじかよ……アメリアまで加わるのかよ……せめてパーラあたりになんねえ?アメリアの奴余計なことばっかしやがるから」


 かなめは茜の言葉にただ茫然と立ち尽くしていた。


「嘘をついても仕方ありません」


 茜はそれだけ言うと慣れた調子で着々と畳を拭いていた。


 かなめは一瞬、茜の言葉、『アメリアが誠達とともに法術特捜の捜査員を兼務する』という意味を理解できないでいた。


 しかし茜にまじまじと見つめられてようやく事態を把握した。


「なんだってー!」 


 かなめの叫び声が響き、ドアからうわさの人アメリアが顔を覗かせる。


「なにやって……」 


 アメリアはそれだけ言うと言葉を続けることは出来なかった。自分の顔をこれでもかというくらい突きつけているかなめにアメリアはただ息をのむ。


「そんな……私に気があるなんて……かなめちゃんには……かえでさんがいるじゃないの」 


 そう言いながらもアメリアは目を閉じてキスを待つような格好をする。


「そう言う話をしてるんじゃねえ!本当か?こいつの言ったことは、本当か?」 


「話が見えないわよ!茜さんが何言ったのよ!」 


 助けを求めるようにアメリアは誠に視線を投げる。


「法術特捜の司法局実働部隊からの協力者のメンバーにアメリアさんが入っているかということですよ」


 誠の言葉にアメリアは余裕の笑みを浮かべていた。


「そうなんだけど、何か問題があるの?」 


 その挑戦的な口調に、かなめは思わず引き下がった。


「こんちわー!何でも屋です……って、どういうこと」 


 タイミングを計ったかのように島田が部屋に工具を持って現れた。ぴりぴりした雰囲気。にらみ合うアメリアとかなめ。助けを求めるように島田は誠に目を向けた。


「ごめんなさいね茜ちゃん、ガサツ娘のお手伝い頼むわ。島田君!こっちのクーラーは後回しにして次はカウラの部屋のにしましょう」 


 アメリアはいつものようにころりと態度を変える。


「じゃあ西園寺さん、終わったら呼んでください」 


 右手に持ったドライバーを器用に手の上でくるくると回すと、島田はそのまま消えていく。


「お前も一緒に消えろ!」 


 かなめは二本目のタバコに火をつけて、茜が畳を拭くのを眺めている。


「かなめちゃんも少しは手伝ってあげれば良いのに。あなたの部屋なのよ」 


 アメリアはそう言うと、手にした雑巾をバケツの中で洗う。かなめはそんな様子を不承不承見守っている。茜もアメリアもかなめのそんな態度には慣れきっていると言うように、黙って畳を拭き始める。


「後は窓ガラスだけですね。ちょっと待っててください」 


 そう言うと誠は黒い汚れた水のバケツを持って廊下に出た。昼も近くなり、額の汗が部屋の埃を吸い込んで肌に張り付いているのがわかる。


「神前君。大丈夫?」 


 水道の前でクーラーのフィルターを洗っているサラに声をかけられた誠は、汗を拭いながら洗い場に汚れた水を流す。


「まあ、大丈夫ですよ。もう少しで終わりそうな感じです。あとは窓だけですから」 


「それじゃあこれがいるわね」 


 そう言うとパーラは新品の雑巾を二枚渡す。


「ありがとうございます。それにしてもすみませんねえ。二人とも休みを潰しちゃって」 


 誠はそう言うと空になったバケツに新しい水を注いだ。


「私達の方が言う言葉よ、それ。アメリアのことだから、絶対、これから誠君に迷惑かけるでしょうからね」 


 パーラのその言葉に、誠は乾いた笑いを浮かべる。


「それじゃあ行ってきます」 


 あまり待たせれば間違いなく雷が落ちると予感した誠はそのまま二人を置いてかなめの部屋に戻った。


 誠は窓を拭き始めた。ただビルの影の窓なのでそれほど汚れは無い。


「手伝いますわよ」


 声をかけてくる茜に首を横に振ると誠は仕上げのからぶきを始めた。


「ようやく終わったわね。誠ちゃんももうすぐみたいじゃないの」 


 部屋の中央でアメリアは部屋を見回した。茜は微笑んで静かに部屋を出て行く。かなめは相変わらずタバコをくゆらせている。アメリアは澄んだ色のバケツに新品の雑巾を落として絞る。


「ああ、暑いなあ。誠!島田の修理屋がどうなってるか見てきてくれよ」 


 かなめはそう言うと畳の上に大の字で体を横たえた。


 誠はアメリアの部屋を通り過ぎてカウラの部屋に入った。踏み台に乗った島田がクーラーの前の部分を外してドライバーで中の冷却剤の流れている管を叩いている。




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