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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第三十八章 新たなる日常の予感

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第155話 働かない女の考察

「とりあえず雑巾絞れ。掃除ってのはそうやって始めるんだろ?」 


 家事についてまるで知らないかなめは誠に雑巾の入ったバケツを突きつけてくる。誠はすぐに彼女が何もしないつもりなのがわかった。


「わかりましたよ!僕がやれば良いんでしょ」 


 誠はとりあえず二枚の雑巾をバケツに放り込んで絞り始めた。かなめはその様子を見つめている。


「西園寺さんも少しくらいは手伝ってくださいよ。ここ西園寺さんの部屋になるんですよ。今住んでる家、誰が掃除してるんですか?」 


 かなめに手伝うように言っても無理とはわかりつつも、誠は自分で二枚目の雑巾を絞る。正直心の中の半分以上はかなめの行動には期待していなかった。しかし、思いもしないほど素直にかなめは搾った雑巾を受け取った。


「なんでアタシがオメエの言うことを聞かなきゃなんねえんだよ……まあ一回ぐらいは手伝ってやるよ。一回ぐらいはな」 


 かなめは雑巾を手に持つと、そのまま部屋の畳をやる気が無さそうにいい加減に拭い始めた。


「神前、聞いて良いか?」 


 一つ畳を拭き終わったかなめが起き上がり、手の上で雑巾をひっくりかえす。


「はい」 


 誠は壁についたシミを洗剤でこすって落とそうとしていた。


「オメエ自分の力をどう思ってる?二度も襲われてるんだ、それについてどう見るよ?」 


 かなめの言葉に誠の手が止まる。誠はとりあえず洗剤を置き、雑巾でシミのついた壁をこすり始めた。


「そうですね。何も知らない時の方が気楽だったかも知れませんね」 


 誠の言葉は彼の本心だった。この『特殊な部隊』に入るまでは自分について何も知らず、ある意味気楽に生きていけた。しかし、今はそうではない。誠を狙う勢力が複数、常に真を監視しある勢力は引き込もうとし、ある勢力は実験動物にしようとしている。その事実を知ってからと言うもの、誠の心の休まることは無かった。


「意外だな、お前のことだから怖いですって即答すると思ったんだけどな。訳分からねえで襲われた方が怖くないのか?」 


 誠の顔がかなめの方に向き直る。かなめは照れたように次の畳を拭き始める。


「自分に力があるなんていうことを知らなければ、ただの偶然でまとめられるじゃないですか。うちは特殊部隊ですからそのとばっちりってことで納得できたと思うんです。自分に原因は無いんだってね。でも今回のは違いました。僕はもう自分が法術適正者だと知ってしまった。相手は他の誰でもなく僕を狙ってくるのがわかる。どこへ行っても、どこに隠れても、僕であるというだけで狙われ続けるんですから」 


 誠はいくらこすっても取れない畳のシミと格闘していた。誠は今度は雑巾にクレンザーを振りかける。


「そうだな。アタシも気になってさあ、ここのところ法術に関する研究所のデータや軍の資料を当たってみたんだ。公開されてる情報なんてたかが知れているが、それでも先月の近藤事件以降かなりの極秘扱いのデータが公表されるようになったしな」 


 かなめは雑巾を畳の目に沿ってゆっくりと動かす。


「遼州人のすべてが力を持っているわけじゃねえ。純血の遼州人の家系であることが間違いない遼南王朝の王族ですら、力が確認されている人物は記録に残っているのはたった三人だ。初代皇帝女帝遼薫(りょうくん)。二十六代目遼寧(りょうねい)の皇太子で廃帝ハド。そして新王朝初代皇帝遼献(りょうけん)だけだ」 


 誠はクレンザーの研磨剤で消えていくシミを見ながらかなめの言葉を聴いていた。


「数千人、数万人に一人の確立というわけですか。でも僕は選ばれたと言って喜ぶ気にはなれませんよ」

 

 誠の手が止まる。かなめはそれを見ると立ち上がった。


「不安なのか?」 


 そう言うとかなめは誠の頭に手を置いた。


「言っただろ?アタシが守るって」 


 中腰の姿勢から立ち上がる誠。かなめは集中するように畳を拭き続ける。誠はそんな彼女を見下ろす。かなめは一瞬、作業を止めて誠を見上げたが、すぐに目を逸らすと再び畳を拭き始めた。


「勘違いするなよな!アタシはお前の能力を買っているから助けるだけだ。テロリスト連中に捕まってアメリアが大好きな特撮モノの怪獣ばりに暴れられたら困るからな……」 


 誠はこっけいに見えるかなめの姿に笑いをこらえていた。



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