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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第三十四章 誠の能力に関心を持つ軍隊の存在

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第143話 頼りにならない護衛

 遅れてたどり着いたサングラスの二人の男は車停めると素早く降りたった。彼等の追っていた『スカイラインGTR』には人の気配が無い。


「とりあえず確認だ。まだ遠くへは行っていないはずだ。すぐに見つけろ」 


 助手席から降りた男は、そう言うとそのまま車のシートを確認するべく駆け寄った。エンジンは切られてすぐらしく、熱気を帯びた風が頬を撫でる。二人は辺りを見渡す。明かりの消えた高校の裏門、ムッとするコンクリートの焼ける匂いが二人を包んでいた。


 とりあえず確認を終えた二人が車に戻ろうとした時だった。


「動くな」 


 カウラの声に振り向こうとする助手席の男の背中に硬いものが当たる。相棒はかなめに手を取られてもがいている。


「そのまま手を車につけろ」 


 指示されるままに男はスポーツカーに手をつく。


「おい、どこのお使いだ?車での尾行はあまり慣れてないってことは車のあまり普及してない国の軍だな。ベルルカンの失敗国家のどこかだろ?貴重な法術師をあんな『修羅の国』に放り出す訳にはいかねえんだ」 


 かなめに右腕をねじり上げられた運転手が悲鳴を上げる。


「かなめちゃんさあ。二、三発、腿にでも撃ち込んであげれば、べらべらしゃべりだすんじゃないの?」

 

 サブマシンガンを肩に乗せたアメリアが、体格に似合わず気の弱そうな表情を浮かべる誠を連れてきた。


「それより神前。せっかく叔父貴からダンビラ受け取ったんだ。試し斬りってのもおつじゃないのか?」


 かなめが物騒なことを言い出すので、誠は抜こうとした『バスバの(つるぎ)』を後ろに隠した。


「嫌ですよそんなの。もうこの人達抵抗する意思ないみたいじゃないですか。いじめですよこんなの」


 戦いに向いていない。誠は自分でもそう思っていた。

 

「わかった、話す!」 


 スポーツカーに両手をついていた男がかなめの言葉に驚いたように、背中に銃を突きつける緑のポニーテールのカウラに言った。


「我々は甲武国海軍情報部のものだ!」


 サングラスの男はあっさりと自分の身元を話した。 


「甲武海軍ねえ、確かに甲武は自動車の普及率は東和と比べるとそれはもう恥ずかしくなる程度だから仕方ねえか。しかし、情報部に身を置くにしちゃあずいぶんまずい尾行だな。もう少しましな嘘をつけよ」 


 かなめはさらに男の右腕を強くねじり上げる。男は左手でもれそうになる悲鳴を押さえ込んでいる。


「本当だ!何なら大使館に確認してもらってもかまわない。それに尾行ではない!護衛だ」 


 両手をついている男が、相棒に視線を移す。


「それならなおのこともっと上手くやんな。護衛する相手に気づかれるようじゃ転職を考えた方がいいぜ」 


 そう言うとかなめは右腕をねじり上げていた男を突き放す。カウラは銃を収め、不服そうに眺めているアメリアを見た。


「上は親父か?」 


 かなめは父親の自分にちょっかいを出してくるところが嫌いだといつも公言していた。


「いえ、海軍大臣の指示です、藤太姫様。神前誠曹長の安全を確保せよとの指示をうけて……」 


 安心したようにかなめはタバコに火をともす。


「紛らわしいことすんじゃねえよ。そう言うことするならアタシに一声かけろっつうの!」 


「かなめちゃんなら怒鳴りつけて断るんじゃないの?」 


 アメリアはサブマシンガンのマガジンを抜いて、薬室の中の残弾を取り出す。


「そんなことねえよ……アタシだって不安になる時あるし」 


 小声でつぶやいたかなめの言葉にカウラとアメリアは思わず目を合わせた。


「まあこの程度の腕の護衛なら私だって断るわねえ」 


 アメリアは取り出したサブマシンガンの弾をマガジンに差し込む。


「それじゃあもうちょっと揉んでやろうか?」 


 こぶしを握り締めるかなめを見て、後ろに引く二人。


「それくらいにしておけ。しかし、この程度では確かに護衛にはならんな」 


「そうよねえ。第三艦隊第一教導連隊の連隊長くらい強くなくちゃあ……」 


 軽口を叩くアメリアをかなめがにらみつけた。


「つまり、かえでを連れて来いってことか?冗談が過ぎるぜ」 


 かなめはタバコに手を伸ばす。


「わかってるじゃない!いとしの妹君にお姫様だっこしてもらってー……」


 またアメリアの妄想が始まる。呆れ果てたようにかなめの目が死んでいる。 


「アメリア、灰皿がいるんだ。ちょっと手を貸せ!」 


 かなめはタバコに火をつけるとそのままアメリアの右手を引っ張って押し付けようとする。


「冗談だって!冗談!」 


 かなめの剣幕に笑いながらアメリアは逃げようとする。


「冗談になってないなそれは」 


「カウラ良いこと言うじゃねえか!そうだ、何だってあの……」 


 あきれている二人の男達に見守られながらカウラの顔を見るかなめだったが、そのまじめそうな表情に思わず肩を押さえていたアメリアに逃げられる。


「それにかえでさんのうちへの配属は時間の問題みたいだからね」 


 アメリアは笑っている。


「……マジかよ」 


 アメリアの言葉にかなめはくわえていたタバコを落とした。


「うれしそうだな、オメエ」 


「別に……、それじゃあ君達は帰ってもいいわよ。護衛の任務は私達が引き継ぐから」 


 かなめ達の会話にあきれていた海軍士官達は、アメリアの声を聞いてようやく解放されたとでも言うようにすごすごと車に乗り込むと路地から出て行った。


「それじゃあ行きましょう!」 


「ちゃんと話せ!ごまかすんじゃねえ!」 


 かなめの叫び声を無視してカウラとアメリアは車に乗り込む。仕方なくその後ろに誠は続いた。




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