第134話 相容れぬものの共闘
しばらくの間沈黙が流れた。嵯峨はその間に再びタバコに火をつけた。
「奴等なら手を組みかねねえな。目的の為なら誰とでも手を組む、そんな男を俺は知ってる」
嵯峨はタバコの煙を吐きながら、まるでランが知っていて当然のような顔でランの当惑する様を眺めていた。
「遼北の教条主義者か?西モスレムのイスラム教過激派か?それとも……」
「どちらも外れ。もっと質の悪い連中がいるじゃないの。この遼州系には。先の大戦で地球圏が俺が所属した甲武国の属する『祖国連合』を叩くということで、地球圏が反連合側に協力して軍を派遣したきっかけになった連中。そいつ等だよ」
「ネオナチか」
ランは漸く納得がいったかのような顔で嵯峨の感情を殺しているような眼を見つめ返した。
「そうだ。ネオナチには一人、切れ者が居る。情報の重要性を理解している奴。前の『近藤事件』でも陰で糸を引いていたのは奴だ。恐らくこの宇宙でここ東和共和国に存在する情報を管理することで一国平和主義を貫くことをこの国に強制している存在『ビックブラザー』の追及を逃れることができるのはおそらくあの男くらいのものだ」
そう言うと嵯峨は大きなため息をついた。
「アンタがため息をつくほどやばい奴なのかい、そいつは。そいつが近藤の旦那の背後に居て『ビックブラザー』の追及を逃れてるってことは、もしそいつが本気だったらあの時アタシ等に『ビックブラザーの加護』は無かったってことか……そしてアタシ等は近藤の旦那の率いる決起軍の数に押しつぶされていた」
ランはあの戦いが実は薄氷の上の勝利だったことを知り、背筋に寒いものが走るのを感じていた。
「でもその男はあくまで近藤の旦那を捨て駒として使った。その男にはあの戦いで近藤の旦那には負けてもらう必要があったんだ。そして、『法術』がこの宇宙に生きるすべての存在に表ざたになることを、この『今』の状況を望んでいたんだ。そのことがその男と『廃帝』がつながっているという何よりの証拠だ」
それまで光のまるでなかった嵯峨の目にこの時初めて光が入った。
「確かにこの状況下なら『廃帝』はもう隠れて暮らす必要はねー訳だ。これからは『法術師』の時代。そう宣言したのはアタシ達だからな。『廃帝』が目的に近づく手助けをした訳か……そう考えると複雑だな」
ランはあの勝利を誰よりも喜んでいるのが自分達ではなく嵯峨の言う『その男』と『廃帝ハド』だという事実に耐えられない屈辱を感じて歯を食いしばった。
「終わっちまったことを今更どうこう言ってもしかたないよ。あれがあの時点での最善策だったんだ。それとも甲武が再び『貴族主義者』の国になって良かったって言うのか?ラン、お前さんの判断は少しも間違っちゃいない。今回はその男と『廃帝』は笑っていられたかもしれないが、これからも笑っていられる保証はない。こちらも無策と言うわけじゃ無いんだ。対策はこれから立てればいい」
慰めるように嵯峨はそう言った。ただ、戦士であることに誇りを持っているランには自分の最高の勝利を実は別の『敵』が一番喜んでいたという事実に我慢ならないものを感じていた。




