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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第三十一章 『襲撃者』の誠の護衛について

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129/201

第129話 緊急に必要とされる誠の『護衛』

「じゃあ、こいつが疲れてる理由はどうするんだ?野球の練習で投げすぎたからとか海で遊び疲れたなんて理由は通用しねえからな」 


 かなめが誠を指さした。またいつもの叔父と姪の決まりきった喧嘩が始まった。そう言う表情でアメリアはため息をついている。


「俺のせい?」 


 そう言って嵯峨は頭を掻く。アメリア、カウラ、そして茜も黙ったまま嵯峨を見つめている。


「どう言えば納得するわけ?俺に言ってほしいこと言ってよ。俺も神様じゃないからそこまで察しは良くないんだ」 


 嵯峨はいつもの調子で詰問する気満々のかなめの顔を死んだ目で見つめる。


「今日、こいつが襲われた」


 かなめはそう言うと誠を指さした。怒りに震えているその指先を見ても嵯峨のとぼけた表情は変わらなかった。


「そんなこともあるだろうね。『近藤事件』のヒーローだもん。ちゃんとサインはしてやったか?ファンは大事にしろよ」


 相変わらずピントのぼけた話し方で嵯峨はその場を切り抜けようとする。


「自分を拉致ろうって奴にサインする馬鹿が何処にいるよ!襲ってきた馬鹿の身元。知ってるんだろ?だから茜が救出に来た。それも叔父貴の差し金だろ?いつもの事だ。アタシを馬鹿にするのもいい加減にしろ」


 再びかなめが怒りに任せて埃だらけの嵯峨の執務机を叩き、部屋に埃が蔓延して皆は席に襲われる。


「そうだねえ……知ってるような……知らないような……そんな話明日で良いじゃない。早く帰んな。神前の奴青い顔してるぞ」


 嵯峨は口を割るつもりはないと言うようにそう言った。


「だから何度も言ってんだろ?そいつに指示を出した奴の身元でもわかればとっとと帰るつもりだよって」 


 かなめは机に乗っていた拳銃のスライドを手に取る。彼女は何度も傾けては手で撫でている。嵯峨は頭を掻きながら話し始めた。


「たしかにお前さんの言うことはわかるよ。誰が糸を引いているのかわからない敵に襲われて疑問を感じないほうがどうかしてる。しかも明らかにこれまで神前を狙ってきた馬鹿とは違うやり口だ。神前の事を何も知らないマフィア連中とは違って明らかに神前の能力を知った上で襲撃を仕掛けた」


 以前拉致された時の恐怖が誠を襲う。しかし、その恐怖の感じ方は今回感じた恐怖とは明らかに毛色が違うものだった。 


「そうだよ。今度のは誠の馬鹿や叔父貴と同じ法術師だ。しかもご大層に『遼州を解放する為に力を貸してほしい』とかお題目並べての登場だ。ただの愉快犯やおつむの具合の悪い通り魔なんぞじゃねえ」 


 かなめはそう言いながら拳銃のバレルを取り上げリコイルスプリングをはめ込み、スライドに装着する。


「予想してなかった訳じゃねえよ。遼州の平均所得は例外の東和を除けば地球の半分前後だ、結局は世の中金だしね。分け前が少ないことで不穏分子が出てこないほうが不思議な話と言えるくらいだからな……しかも『近藤事件』で俺達遼州人にはとんでもない力が眠ってることが分かっちゃったんだ……『優生思想』に染まる馬鹿が居てもおかしくねえわな」


 そう言うと伸びをして大きなあくびをするのがいかにも嵯峨らしく見えた。 


「そう言うこと聞いてんじゃねえよ。明らかに法術に関する訓練を受けたと思われる組織がこちらの情報を把握した上で敵対行動を取った。そこが問題なんだ……どう考えても一月や二月で思いついて仕掛けてきた奴じゃねえ……かなり前々から訓練を受けてた奴だ」 


 かなめはそのまま嵯峨の机のそばに行って中の部品を手に取る。いくつか机の上に置かれた拳銃のフレームから、手にしたスライドにあうものを見つけるとかなめはそれを組み上げた。


「つまりだ。かなり以前からアタシ等も知らない法術に関する知識を豊富に持ち、さらに適正所有者を育成・訓練するだけの組織力を持った団体が敵対的意図を持って行動を開始しているって事実が、何でアタシ等の耳に入らなかったかと言うことが聞きたくてここに来たんだよ!」 


 かなめは拳銃を組み上げてそのまま静かにテーブルに置いた。かなめの手が嵯峨の机を再び叩いて大量の鉄粉を巻き上げることにならなかったことに誠は安堵する。その様子を黙って見ていたランもかなめに多少の学習能力が身に着いたことがうれしいようで口元に笑みまで浮かべていた。


 嵯峨は困ったような顔をしていた。誠はこんな表情の嵯峨を見たことが無かった。常に逃げ道を用意してから言葉を発するところのある隊長として知られている。のらりくらりと言い訳めいた言動を繰り返して相手を煙に撒くのが彼の十八番だ。だが、かなめの質問を前に明らかに答えに窮している。


「どうなんだ?心当たりあるんじゃねえのか?」 


 かなめがさらに念を押す。隊長室にいる誰もが嵯峨の出方を伺っていた。誠を襲った刺客。前回は嵯峨が行った誠の情報のリークがきっかけだった。そんな前回の事情があるだけに全員が嵯峨を不信感を漂わせつつにらみつけていた。



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