表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第三十章 ひと夏の経験を終えて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/201

第122話 ロマンの香り漂う海

「誠さん」 


 不意に声をかけられた誠は更衣室を出てあたりを見渡す。そんな誠の肩を叩いたのがひよこだった。


「ひよこさん、何ですか?」 


 さすがにいろいろあった一日で、心地よい疲労感のようなものが誠を包んでいた。


「これ拾ったんだけど、西園寺さんにと思って……あの人、いつも追い詰められているように見えて、これを耳に当てればきっとその心も落ち着きますよ」 


 ひよこが差し出したのはピンク色の殻を光らせる巻貝だった。子供のこぶし程度の大きさの貝は次第に朱の色が増し始めている日の光を反射しながら、誠の手の上に乗った。


「良いんですか?」 


 いかにもひよこが好きそうなきれいな貝を手にして誠は彼女を見下ろした。詩をこよなく愛するひよこにふさわしいプレゼント。誠はそのチョイスに理系人間であまり歌心などには関心のない自分と見比べてひよこの心配りをうれしく感じた。


「今日の素敵な休日をくれたのは西園寺さんなんで……そのお礼としてあげてください。たぶん誠さんから貰うと西園寺さんもうれしいと思うから」 


 ホテルの駐車場に向かう島田達を見守りながら誠はひよこに渡された巻貝を耳に当てた。


 潮の音がする。確かにこれは潮の音だ。いくら詩心の無い誠でも少しの感動を覚えていた。


「何やってんだ?」 


 背中から不思議そうなかなめの声が聞こえた。誠は我に返って荷物を抱えた。その際、耳に当てていたひよこからもらった貝を思わず落とした。


「なんか落ちたぞ」 


 そう言ってかなめが誠の手から滑り落ちた巻貝を拾い上げた。


「こりゃだめだな。割れちまってるよ」 


 少しばかりすまないというような声の調子のかなめのかなめがいた。誠は思わず落胆した表情を浮かべる羽目になった。


「アタシに渡そうとしたのか?」 


 そう言うと、珍しくかなめがうつむいた。


「ありがとうな」 


 そう言うとかなめは自分のバッグにひびの入った巻貝を放り込む。何も言わずにかなめはそのまま防波堤に向かって歩いていく。


「良いんですか?」 


「お前の初めてのプレゼントだ。大事にするよ。下手にブランド物のバッグを送られたりするよりこっちの方が百倍嬉しいくらいだ」 


 かなめはそう言うと誠を置いて歩き始める。誠は思い出したように彼女を追って走り出す。追いついて二人で防波堤の階段を登って行った。誠もそれに続いて階段を駆け上った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ