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エリアスは小さいころから母である王妃がみっともなくて大嫌いだった。
みっともないのは外見の話ではない。プライベートの話である。
母と父は完全なる政略結婚だった。でも、残念ながら不幸にも母だけは父を愛してしまった。
一方通行の愛。
別にそれがみっともないわけではない。だが、父の気を引こうと母があらゆる手を使う様がみっともなかった。自分の有能さをひけらかしたり、気分で他人に優しくしてみたり、体調不良になってみたり、たまにヒステリックに喚いたり、子供を使ったり。
父が母を愛していないのはエリアスでもすぐ分かるのに。なんて無駄なことを。エリアスが母を見る目は幼いながらにどんどん冷めていった。
母は意地なのか何なのか、王子を三人生んで自分の地位を盤石にした。スペアにさらなるスペアまでいる状態だ。別に王女がいなくても、アシェルかスチュアートのどちらかを国外に出せば関係強化ができる。三人いれば、どれか一人がボンクラの無能でも大丈夫だ。
スチュアートを生んでしばらくして、母は父に愛されようとするのを表面上は諦めた。目立ったアピールはしなくなった。その代わり、スチュアートを溺愛し始めた。
その溺愛の結果が今のスチュアートだ。もう目も当てられない、いやエリアスとしては可笑しくて仕方がない。おめおめとブレスレットであんな本心を引き出されるなんて。
母が公務をエリーゼ嬢とアシェルに押し付けているのを見て、エリアスは「あぁまたか」と内心思ったのだ。また、母は父の気を引こうとしていると。溺愛していたスチュアートがやらかしたら、また父に戻るのかと。
それはそうだ。エリアスは母をみっともないと蔑んでおり、すぐに下が生まれたアシェルは母に興味も関心もない。
エリアスは自分の軽率な判断を悔いた。別に母が病気だったことにショックを受けたのではない。安易な判断を下した自分の愚かさを悔いただけだ。
目の前でエリーゼ嬢への怨嗟を呟いて咳き込む母を見ても、自業自得だとしか感じない。
チラリと隣に座るメイメイに視線を向ける。先ほどから手を重ねているが、彼女の手は冷たい。彼女はエリアスが見落としていたことに気付いていた。それがエリアスを安心させる。
母のようなみっともない女と結婚するのだけは絶対にごめんだ。あんな相手からの愛をずっと求め続けるような、相手に依存ばかりする偽りの愛ならいらない。
だから、初対面で逆プロポーズをかましてくるような強い意志を持ったメイメイは好ましい。家族に虐げられながらも強い意志を失わず、俺に唯一命令まがいなことをしてきた女。
母の態度はすべてねちっこくて気持ち悪かった。メイメイの言動はエリアスの心に強く響いた。
「いつから病気に気付いてたんだ?」
「最初っからじゃな。確信したのはもう少し後じゃぞ? ワシはエリアスよりも王妃様と接する時間が最近は長かったからの」
ノックと共に一人の男が部屋に入ってきた。特徴のない眼鏡の男は、メイメイを助けた王家の影だ。メイメイは男に気付いたらしく少し手に力が入る。
男はまっすぐにエリアスのところまで歩いてきて、耳元で報告をした。
「分かった」
エリアスが短く答えると、使用人の服を着た男は出て行く。
やっぱりそこにまた戻るのか。
魅了のブレスレットなんてなくても人間が一番怖い。
なぁ、アシェル。エリーゼ嬢を傷つけたことに彼女の元婚約者が絡んでいると知ったら、今のお前はどうするんだろうか。
「母上。そろそろ喋ってくれませんかね。誰が母上に密告を?」
エリアスはメイメイに重ねた手に力を一瞬込めてから口を開いた。




