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いつもお読みいただきありがとうございます!
急に窓から突風が吹き込んだ。
読んでいた手紙が飛ばされて、壁にぺたーっと張り付く。
「私共がやりますので!」
「妃殿下は安静になさってください」
ベッドから下りようとしたナディアを侍女たちが押しとどめて、読み返していた手紙を拾ってくれる。
「急に風がでてきましたね。窓は閉めておきます」
「雨が降るんでしょうか」
ロレンスが顔を出す時までに手紙の返事を書いておこうと、ベッドの上で手紙を読み返していたところだった。ロレンスは頻繁にエリーゼたちから手紙が来るのが少し面白くないようだから。
飛ばされたのはちょうどエリーゼの手紙だった。
先ほどまで明るかったのに、雲が出てきて空と太陽を覆っている。
「嫌な天気になりそうね」
ナディアは胸騒ぎを覚えながら再度手紙を読み始めた。
***
「どういう、こと……??」
王宮の客室に案内されてフライアたち三人は混乱していた。この場で最も落ち着いているように見えるのはゼインだ。
ベッドに寝かされているのは広間で会ったはずのエリーゼ。右肩には血のにじんだ包帯が巻かれている。エリーゼの怪我をしていない左手を握っているのは、ぼんやりしたアシェルだ。
「メイファアウラ殿下を狙った者がおりまして、エリーゼ様は殿下を守るべく時間稼ぎをしようとしてくださったようです。護衛の到着も広間の事件で遅れていました」
「エリーは第二王子の婚約者なのに……隠れて護衛もついていなかったの?」
呆然としたフライアとブルックリンよりも先に我に返ったのはクロエだった。
「休憩室の扉の前にはあの騒ぎが始まるまでいたようですが……警備に穴があったかどうかはまだ分かりません」
「エリーは大丈夫なの?」
ブルックリンが震えながら声を上げた。
「肩を深く刺されています。また、刃に毒が少量塗ってあったようでして……現段階で意識が戻っていません。殿下は呼ばれているのでここをお三方に任せてもよろしいでしょうか? クリストファー様はまだこちらに来れないので」
「当たり前よ。真相を早く解明して」
フライアの発言は偉そうに聞こえたかもしれないが、やっぱり声は震えてしまった。
「殿下、行きましょう」
「行かない」
「しかし……」
「警備に穴ができていたのだとすれば、そんなことができる人間は限られているよね? ナイフが持ち込めるのもおかしいし」
エリーゼの顔を見たまま発言するアシェルにゼインは初めて表情を変える。
「ここでそういう話はマズイかと」
「彼女たちもバカじゃないんだ。少し考えたらすぐ可能性くらい分かるよ」
ゼインに視線を向けられ、三人は「聞いてません」とばかりに顔をそむけた。
「僕は母上のところには行かないよ。話したいこともない。離れてる間にエリーゼに何があるか分からないし」
ゼインはアシェルの頑なな様子にため息を吐くと、少し考えてから三人に黙礼して一人で出て行った。
「私たちも家には知らせておきましょう」
「じゃあ、私が伝言してくるわ」
「もう少し情報が欲しいところよね。私も行くわ」
三人でそっと頷き合って行動に移す。
部屋には意識のないエリーゼとアシェル、フライアが残された。




