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処置されて運ばれたエリーゼを見送りながら、メイメイは肩で息をした。
「こちらはもうお放しください」
うっかりまた燭台を手にしようとして止められる。
「広間の方は大丈夫なのじゃな?」
「国王陛下と王太子殿下が事態を収めています。エリーゼ様にはアシェル殿下が付き添います」
「そうか、なら良い。ワシは広間に戻った方がいいんじゃろうか」
気付くとカーペットとドレスに血がついている。エリーゼの脱ぎ捨てた靴を見て、思わず体が震えた。
「いえ、王妃殿下がいらっしゃいました」
影だと名乗った男がメイメイの向こうに視線をやる。廊下の先からは王妃が侍女と共に歩いてきた。
「まぁ、みすぼらしい格好だこと」
「命以上にドレスが大切なわけはないのでな」
メイメイは目を細めて王妃グローリアを見上げる。先ほどの出来事で気が立っているから攻撃的な口調になってしまう。
王妃は素早くドレスとカーペットに視線を走らせた。
「あの子でも役に立つのね」
「首謀者の目星はついておるんでしょうな? ワシに不満がある者でしょうが」
「それはすぐ突き止めるでしょう」
ここで王妃の無神経な発言を咎めたところで意味はない。メイメイは拳を握りこんで耐える。
王妃はメイメイのすぐ側まで近づいてきた。
「あなたにお願いがあるのだけれど」
「それは王妃様の顔色と関係があるんじゃろうな?」
メイメイのつっけんどんなセリフに王妃は笑った。
「嫌だわ、息子でさえ気付いていないのに。あなたに気付かれるなんて」
「ワシは人の顔色をうかがうのは得意なのじゃ」
「エリアスも嫌な子を選んだものだわ」
「エリアスを選んだのはワシじゃ。さぁ、支えればいいんじゃな?」
「本当に嫌な子……えぇ、部屋までお願いできるかしら」
「靴は脱いだ方がいいじゃろうて」
侍女がさっと王妃を支えたので、メイメイは跪いて王妃のドレスの中に手を突っ込んでかかとの高い靴を脱がせた。
「エリアスの女性を見る目を褒めるべきなんでしょうね」
「存分に褒めると良いぞ」
「嫌だわ、あなた。葉っぱや小枝がチクチクするわ」
「命より大切なものはないのじゃ」
メイメイの肩に王妃が手を回してきたので体を支える。反対側の侍女が頷いたのでゆっくり歩き始める。
広間の方向が騒がしい。
逆方向に歩きながらメイメイはそっと王妃を見遣る。
「毒ではないんじゃな?」
「夜会で盛られたわけではないわ」
「病か?」
「分かってほしい人に分かってもらえなくて、どうでもいい人に分かってもらえるなんて。世の中はうまくいかないものね」
「ワシは誰かに分かってもらうことなぞ、忘れるほどとっくの昔に諦めた。王妃様の言うことはよく分からん」
「それが正しいんでしょうね」
王妃の自室まで到着すると、王妃は倒れ込むように寝台に身を投げた。先ほどまで相当気を張っていたのだろう。
「広間の件が終わったら息子たちにここに来るように伝えて」
「犯人が分かっておるのか?」
「きっと、望む答えが聞けるはずよ」
王妃はその言葉を最後に、目を瞑る。
今話す気はないのだと判断してメイメイは小刻みに震え続ける体を抱きしめた。
目を瞑りかけて、すぐに見開く。
侍女を見遣ると頷いて「伝えてまいります」と出て行った。
「何が起きているのか、全く分からんよ。エリーちゃん」
震える体のあちこちを叩いてメイメイは気合を入れた。




