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メイドは鍛えているのかエリーゼが突き飛ばしても転ばず、よろめいただけで踏ん張る。
エリーゼはヒールを脱ぎ捨てて、メイドに体当たりをした。
メイメイは接していると忘れそうになるが他国の王女だ。彼女がこのお披露目の夜会で傷でも負ったら外交問題になる。殺されてしまうのはさらにマズイ。
このメイドは場所を教えても、エリーゼを殺さなかった。狙いはメイメイだけなのだろう。
「逃げて!」
エリーゼはもう一度叫ぶと、体勢を素早く整えて部屋に入ろうとするメイドの後ろから腰に縋りついた。
見える範囲に誰もいなかったから、私ができるのは時間稼ぎだけだ。
何度も蹴りを入れられたが、今度はメイドの足にしがみつき扉を開けるのを体重で阻止した。無駄に平均より背が高いことが今初めて役に立っている。
メイメイのことが命を懸けるほど大事なのかと聞かれたら、それはまだ分からない。
でも、エリーゼの心は疲れていた。自分のことがどうでもいいとこの場面で思うほどに。
「ちっ! この女! 離せ!」
メイドの言葉に訛りはない。
エリーゼの肩に熱い痛みが走った。感じたことのない痛みに思わず呻いて力が抜けそうになったが、それでもメイドの足は離さない。
ガチャっと音を立てて目の前の扉が開いた。
「だめっ!」
エリーゼが叫んだのと同時にメイドの足がエリーゼの腕から抜け出した。
地面に叩きつけられてもうダメだと思っていたら、目の前を何かが横切った。エリーゼの目にはメイドが吹き飛んだように見えた。
「エリーちゃん!」
今度はメイメイが部屋から出てきた。髪のあちこちに葉や小枝がついており、片手に燭台を持っている。
「エリーちゃん、ゆっくり息をするのじゃ。大丈夫じゃからな!」
メイメイは今夜のためのドレスを躊躇いもなく引き裂いてエリーゼの背中に当てる。
エリーゼがうつぶせに倒れたまま視線を上げると、誰かが廊下でメイドの腕を捻りあげているのが見えた。
「エリーちゃん、絶対大丈夫じゃからな!」
なぜメイメイは泣きそうな顔でそんな震えた声なのだろうか。安心したのだろうか。
「メイメイは大丈夫ですか? 木の上に逃げてくれたんですね?」と聞こうとしたが、声が出なかった。
あれ? おかしい?
「影が来てくれたからな! 目を閉じるでない! エリーちゃんよ! しっかりするのじゃ!」
目を閉じてはいないつもりなのだが……でもさっきからメイメイの顔以外がよく見えない。だんだん視界が狭まってくる。
「早く医者を呼べ! そんなメイドなど捨ておけ!」
「それでは危険です、今仲間が来ますから!」
「気でも失わせれば良いじゃろうが! もうどうでもよいわ! 誰か! 誰かおらんか!」
メイメイの声はよく通る。これだけ叫べるならメイメイは大丈夫だろう。エリーゼは安心した。
良かった。私はどうなってもいいけど、メイメイに傷がつかなくて。
肩が燃えるように熱い。でも他の部分は酷く冷えている。
王妃にも大して褒められず、いろんな人にふさわしくないと暗に言われていた婚約者だったけど、今日くらい無能な私は役に立っただろうか。
エリーゼが意識を保てたのはここまでだった。




