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誰もいない休憩室にメイメイを連れて行き、ソファに座らせる。
「うぅぅ」
メイメイはしんどそうにソファに体を横たえた。
「人があんなにいると無理じゃ。臭い……吐き気がするほど臭い」
「香水は混ざると……臭いですね」
水をもらってきてメイメイに飲ませ、しばらく横になってもらっていた。
「エリーちゃんは香水はそんなにつけぬのか?」
「アシェルも香水はあまり得意じゃないので」
「ふぅん。仲が良いのぉ」
ちょっとだけメイメイはニヤつきながら再び横になる。
「もう少ししたら戻りましょうか。さすがに長時間会場にいないと何か言われるかもしれないので」
「そうじゃのぉ、だいぶ良くなったが。鼻がバカになりそうじゃ」
「鼻がおかしくならないとあれには慣れませんよ」
エリーゼはその時気付いた。大広間から楽器の音がさっきまで聞こえていたのに、今は何も聞こえない。曲と曲の間にしては長すぎる。
「ちょっと様子を誰かに聞くか見てきます。メイメイはここにいてください」
「あい、分かった」
先ほどよりも顔色が良くなったメイメイはひらひらと手を振る。
そんなに時間は経っていないはずだけど……エリアス殿下から急いで戻れという使いも来ていない。何かあったならフライアたちも呼びに来てくれるはずだ。
休憩室から出ると、廊下に先ほどまでいた騎士たちがいなかった。
「え、何が起きてるの?」
思わず口から独り言がこぼれてしまう。辺りを見回してもやはり誰もいない。
何かあったのかもしれない。
エリーゼが大広間に向かって歩き出すと、廊下の向こうからうつむき気味にこちらに歩いてくるメイドの姿が見えた。
「あ、あなた。大広間で何かあったのかしら?」
エリーゼの声にメイドは驚いたように体を震わせる。
「あ、はい。実は大広間で毒を盛られたご令嬢がいらっしゃいまして……」
「え! それは大変だわ」
大広間でそんなことが起きていたから騎士たちがいなかったのか。
自信がなさそうなメイドは小股で近付いてきて、納得しているエリーゼに光るものを押し付けた。
「王太子の婚約者のところまで案内して。早く」
何が起きたのか分からなかった。エリーゼの肩あたりに突き付けられている光る物は……光で良く見えなかったが今見えた。ナイフだ。
「聞こえてるでしょ? 早く案内して」
メイドはエリーゼの手を掴んで反対方向に向かすと今度は背中に刃物を押しあてた。ドレス越しにナイフの先端が当たっている。
「逃げようなんて考えないでね」
「……大広間の毒の騒動は本当なの?」
呆然としながらもエリーゼの口からそんな言葉が出ていた。
「本当よ。王太子の婚約者はあの休憩室?」
メイドに急かすように背中を押されながらエリーゼは必死に考える。とりあえず、メイメイにはこの事態を知らせてなんとか逃げてもらわなければいけない。彼女一人なら木に登れるようだから、エリーゼと違って身軽にどんな手を使っても逃げられるだろう。
いつ騎士たちが戻ってくるかもわからない。メイメイに影がついているかもまだ分からない。
「……ここにいます」
ゆっくり歩いたのに、とうとうメイメイのいる休憩室の前まで来てしまった。
「扉を開けてあの女を呼んで」
メイドに指示される。エリーゼは震える指で扉に手をかけようとして――
この距離ならメイメイには聞こえるはずだ。
私よりも優先順位が高いのは、明らかに王太子の婚約者であるメイメイだ。私はどうでもいいじゃないか。どうして私は震えて言いなりになっているのだろう。この後、メイメイは殺されるかもしれないのに。
そこまで考えて震えが止まった。
勢いよく振り返ってメイドを突き飛ばす。
「メイメイ、逃げて!」




