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「よく頑張ったわね」
アシェルと一緒に参加者たちと会話し、一段落ついてから休憩室でブルックリンに頭を撫でられている。休憩室を使う前にブルックリンがクロエに声をかけていたが、何を言ったのかクロエの笑顔が怖かった。いや、黒かった。
「ナディアなら多分エリーの頭を撫でるでしょう。代わりに撫でてあげるわ。さすがに隣国の王太子妃になるとほいほいこっちの結婚式に来れないわよね」
「うん。ありがとう。でもカエルやトカゲに頼らないと令嬢たちを言い負かせないなんて……私、力量がないのかしら……」
「いや、あれはあれで良かったんじゃない? むしろあれなら誰も反論できないってゆーか」
エリーゼのため息にブルックリンは苦笑いしている。
「でも、あの令嬢たちしつこかったから。普通最初に言い返された時点で退散するわよ。そもそも一回辞退しといて王子の婚約に難癖つけるとかあり得ないわ~。それに見た? あの腕を引っ張ってるように見せかけたあの令嬢! あれ、大して止めようと思ってないわよ? 腕を引っ張って止める振りしながら他人に代わりに悪口言わすとかほんと性格悪いわぁ! きっといつもグチグチ泣き言垂れて何にもしないタイプの女よ」
あぁ、それもそうか。食って掛かってきた令嬢を本気で止めたいなら止められたはずだ。ずるずる一緒に来たということはあの令嬢もあれが言いたかったのか。
「それにしてもアシェル殿下が予想より頼りになって良かったわ! 駆けつけてくれて、ストレートにいろいろ言っていたもの! トーマスより頼りになるわ!」
ブルックリンの夫であるトーマス様の評価がまだまだ低い……。
「あれ。そういえば、トーマス様は会場に残してきていいの?」
「いいのよ。働いてもらわないと。さ、エリーも一人反省会は終わりよ。今日のはあれでオッケーだったんだから。あんまり言い返すのもみっともない、かといって言い返さなければ舐められる。トカゲでもカエルでもなんでも利用すればいいのよ。私は早速ウーパールーパーを調べるわ! 可愛いのかしら? 可愛かったらそれも商品化よ!」
「うん、ブルックリンが後ろにいてくれたから勇気出たの」
「ふふふ、相手が男だったら問答無用で殴ってたわ。ご令嬢相手に暴力はちょっとね」
「男性相手でも殴ったら大変よ」
疲れを感じながら、一生懸命慰めてくれているブルックリンに微笑む。
ブルックリンたちが庇ってくれるのは嬉しい。でも、自分の駄目さを突き付けられた気がしてエリーゼの中でずっと張りつめていた糸が切れてしまった。
***
「殿下が助けに行くとは意外でした」
「ん? なんで?」
ゼインは会場の隅でまだ図鑑でしか見たことのないウーパールーパーに思いを馳せるアシェルに話しかけた。
「ああいうご令嬢方には極力近付きたくないかと思っていたので」
「僕の場合はゼンがさっさと追い払ってくれるからね」
ゼインの視線の先ではクロエがやたらイイ笑顔で、同じく結婚式で浮かべる笑顔とは思えない笑みのフライアを引き連れて、二人の令嬢のところに向かっている。フライアに至っては肩と首を回しているのはなんでだ?
「エリーゼ様に追い払わせなくて良かったんですか? ああいう輩は蛆のように湧きますよ」
「エリーゼは僕よりああいうのが苦手だろうから。苦手なのに無理に相手しようと強くなる必要はないよ」
「しかし……公爵夫人になるのでしたらこういった場を収めることも必要でしょう」
「エリーゼは今回ちゃんと対応したからいいんじゃない? 周りが助けてくれるのも才能だろう」
「まぁ、それはそうですが……」
アシェルに近付く前にそういう輩をさっさと追い払ったりしている手前、ゼインもあまり強く言えない。そもそもアシェルは変人王子で有名なのであの手の輩はあまり寄ってこなかったのだ。
「母上やブノワ公爵夫人なら一人で対応できるだろうね。でも、母上の場合は父上が助けてくれないからあれだけ強くなった気もするな。でもさぁ、母上って強くなって何か大切なものを失ったと思うんだよね。うまく言えないけど。なんだろう。そんな母上を父上は上辺だけでも取り繕って愛することももうないんだ」
思ってもいない方向に話が広がってゼインは困惑した。いきなり国王と王妃の夫婦関係に言及されても困る。
「僕はああいう夫婦は嫌だなぁ」
「は、はぁ」
何の話をしていたんだっけ?
「でも、エリーゼがヤドクガエルの話を覚えてくれてたのは嬉しいなぁ」
「あの距離で会話が聞こえるあなたの耳がやばいですよ」
「ウーパールーパーとヤドクガエルの話だから」
ヤドクガエルってあれか、青や赤や黄色など綺麗な色をしているが毒を有するという。中には強い毒性を持つ種類もあり、大人でも死に至る。
ゼインの脳内でヤドクガエル情報が素早く展開されてしまう。
ゼイン、アシェルと一緒にいすぎて常人よりもカエルに詳しくなってしまった問題。なんだかんだでエリーゼもこんな感じだ。二人とも気付いていないが、変人と長時間一緒にいる時点で普通に見えてもその人も変人なのである。
「エリーゼを迎えに行こうか」
「あ、はい」
あ、良かった。ちゃんと迎えに行くのか。
婚約者のことを庇って発言し、友人に預けて落ち着いた頃合いを見計らって迎えに行けるのだ。
変人王子から成長したんだなぁ、この人も。この人がこうなったのはエリーゼ様だったからだろう。むしろ、エリーゼ様以外ではあり得なかった。
ゼインは安心した。




