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落ち込んでいると変なものを引き寄せるのだろうか。
クロエの結婚式のパーティーでアシェルと離れ、ブルックリンに捕まっているときだった。
「カエル・トカゲの水晶の置物についてなんだけど、アイディアを出したの。アシェル殿下に感想を聞いておいてくれない?」
「え! 本当に売り出すつもりなの?」
カエルやトカゲの置物を私たちの結婚祝いとして売り出すとは聞いていたけれど、本気だったとは……。
「う、売れるの?」
「売れるわよ。売るわよ。買わせるわよ」
「あ、うん……」
自信満々にブルックリンが胸元から取り出したのは置物のアイディアが書かれた紙だった。カエルのポーズやトカゲのポーズが何パターンも書かれている。
「えっと、どうしてそんなところに入れてるの……?」
「ここが一番隠しやすいのよ。私、胸ないし」
突っ込みがこれ以上入れにくい。ブルックリンは胸の成長を人一倍気にしているのだ。差し出された紙を受け取って目を落とす。
「カエルの背に小さなカエルが乗ってたら面白いかも」
「あ、それはありね! 結婚祝いだから二匹のカエルにこだわりすぎてたわ! いいわね! いいわね! あ、これはエリーゼがデザインしたことにしたら受注生産の方がプレミアな感覚があっていいかも! いや、そうなると王家に許可取らなきゃいけなくなるから……」
ブルックリンのおかしなやる気を刺激してしまったようだ。鼻息が荒くなっている。
「今アシェルに聞いたらいいんじゃないの?」
「クロエの結婚式をぶち壊す勇気はないわ。今、アシェル殿下に見せたらあの池に入っていくじゃない。それはまずいわ」
「……すでに午前中に入ってたから大丈夫だと思う」
「え、ほんとなの? ブレないわね、さすが殿下」
パーティーが行われているのはクロエが嫁ぐクライン伯爵家だ。ナディアのところほど立派ではないが池がある。
「ねぇ、クロエってさすがよね。前の婚約者の家族を呼ぶなんて」
「確か元婚約者の方は留学してるわよね?」
「やぁね、留学という名の逃げよ」
ブルックリンがこそっと囁く。ブルックリンの視線を追うと、クロエの元婚約者のご両親らしき人がいた。
「招かれたからって来るのもどうかと思うけど、関係が改善していると示すには来るしかないわよね」
クスっと笑うブルックリン。
元婚約者の両親はどこか遠巻きにされ、所在がなさそうだ。
挨拶は粗方済ませていたのでそのままブルックリンと話していると、令嬢たちがこちらに近付いてくる。
一人はずんずんとこちらに向かってきて、もう一人は腕を引っ張って止めようとしているようにも見える。
「めんどくさそうなのが来たわね」
ブルックリンはセリフとは裏腹に楽しそうだ。
一人と腕に引っ付いたもう一人の令嬢たちはエリーゼたちの前まで来ると、礼をした。
「あの、本当はこの子がアシェル殿下と婚約するはずだったんです!」
落ち込んでいると変なものを引き寄せるのだろうか。
面と向かって言われたのは初めてだ。王妃殿下には会うたびに言葉の端々に「あなたはふさわしくない」と言いたい雰囲気は感じるが、はっきりとは言われていない。
以前は別の令嬢にゼインとアシェルが結ばれるはずだったのに!って言われてんだっけ。
エリーゼはなんだか疲れてしまった。
幸せそうなクロエを見て浮上していた気持ちがまた萎れてしまっている。
アシェルのことは好きだ。でも、エリーゼはまだ自分のことが嫌いなのだ。
こんな自分がアシェルと一緒にいていいんだと思えない限り、認められない限り、自分は幸せになれない。
母は「認めてくれない外野は恋愛のスパイス」と言った。でも、エリーゼにとっては少しずつ自分の至らなさを突き付けてくる刃なのだ。
「では、国王陛下に頼んだらどうですか? そちらのご令嬢は一度婚約を辞退されたはずですが」
エリーゼの口から思ったより低い声が出た。ブルックリンが後ろで驚いている気配がする。エリーゼ自身もびっくりしていた。




