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「周辺国の言語は心配なさそうね」
「ありがとうございます」
発言内容のわりに、王妃はいつもの厳しい表情を崩さない。
「もうあとはやってみていくしかないわね。自信がなさそうにしていたら付け込まれるわよ。正しいことをしていてもね。いつも注意しなさい」
「はい」
「以前孤児院の慰問を任せたけど、子供たちと院長からの評判はいいようね。引き続きそこはお願いするわ。孤児院の管理は私がやります。来週はサマセット侯爵令嬢の結婚式だったわね」
「は、はい」
評判はいいと褒められたのが意外で一瞬どもってしまうと、王妃に睨まれる。
「そういうところよ。アシェルと一緒に来賓のもてなしをやってもらう機会が増えてくるのだからきちんとしなさい」
「はい。孤児院の運営はいずれメイファアウラ殿下に引き継がれると思うのですが、私が行っていいものなのでしょうか」
王妃が運営しているということは、今後運営に携わっていくのはメイメイのはずだ。
「あれで外に出せるわけないでしょう。もう少し教育してからよ。教養は意外とあるようなのだけど、あの話し方では駄目」
王妃は大きなため息をついた。顔にも疲れがにじんでいる。
「とにかく、あの子よりもあなたは自分のことを考えて心配しなさい。他人を心配できるレベルではないわよ」
褒められているのか怒られているのか分からない王妃との時間に疲れを感じながら、部屋を後にする。
途中でスチュアート殿下をちらりと見かけた。遠目なのに鬱屈とした雰囲気を感じる。最近はだんだん明るくなってきていたのに、まるでルルの騒動後のような雰囲気だ。
婿入りが近くなってきてナーバスになっているのだろうか。兄がドナドナキノコ頭と呼んでいたが、今のスチュアートはしなびたキノコだ。
エリーゼの心も王妃によってしなびていたのだが、スチュアートほどではない。
王妃による授業の後はいつもアシェルに会う。
いつも通り庭に行くと、アシェルはイスを二つくっつけて寝そべり池を眺めていた。
エリーゼが近づくとアシェルはあお向けになってこちらを見た。
「ん」
太陽の光を受けて眩しそうに目を細めながら両腕を差し出されたので、両手で引っ張るとアシェルはイスに起き上がった。
「母上に何か言われた?」
「孤児院の慰問には続けて行くようにと、それからっ」
話の途中で今度はエリーゼの腕が軽く引っ張られる。アシェルの方に少しよろけたが、アシェルがすぐに支えてくれた。さらに不意打ちでキスされる。
完全に不意打ちだったので、驚いて目を閉じることさえできなかった。
アシェルが悪戯が成功したようにちょっと笑ったのを見て、顔に熱が集まる。恥ずかしくて顔をそむけた先には、全力で違う方向に首をひねっているゼインが見えた。
「来週はクロエ嬢の結婚式だね」
「えぇ、いつも忙しいブルックリンにも会えそうだから楽しみ」
なんの照れもないアシェルの様子に悔しくなる。思わず唇を尖らせそうになったが、また外でキスされたら恥ずかしいので慌ててやめた。
アシェルは二つのイスを占拠した状態からどき、エリーゼの手を引いて座らせる。肩が触れる距離だ。いつも対面でお茶をするのに今日は近い。
「公爵になったときに与えられる直轄領が近いから式の帰りに少し寄って帰ろう。兄上には許可取ってあるから」
アシェルは両生類・爬虫類好きに隠れて目立たないが意外と要領がいい。頷くと嬉しそうにしている。
「毒ヘビがいるから気を付けないと。あとあの地域にしか生息しないカエルがいるらしくて」
スキンシップは最近増えてきたが、アシェルは全く変わらない。
いつもならそんなアシェルを見て安心するのだが、エリーゼの気分はなぜか落ち込んだままだった。




