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「エリアスよ、お主はとても賢くよく働く。お主の側近たちもじゃ。でものぅ、エリアス。いい加減、無能で弱い自分を許して愛してやってもいいと思わんか? それが嫌であんなにあくせく働き、周囲にもそれを求めるんじゃろう。何もできない自分が嫌いじゃから、エリーちゃんを見てイライラするんじゃろう……でも気になって助けることもある」
メイメイの独白は続く。
「ふふ、人間は本当に矛盾していて面白いのぅ。矛盾に振り回されて嫌になるのぅ……じゃが、もういいのじゃ。たとえこの愛が偽りだとしても、ワシは良いと思っておる。ワシが正しいと証明する。それがこんなワシでも生きていていいと思えるようになる方法なのじゃ」
エリアスは反論しようと思えば、いくらでもできた。「そんなわけないさ」と茶化して誤魔化すこともできた。
だが、エリアスにしては珍しく何も言えなかった。
***
「え、池に突き落としたぁ?」
「そうじゃ。中庭のあの池じゃの」
「私も一度くらい池に人を突き落としてみたいわ!」
「水しぶきに気をつければ大丈夫じゃ」
城に来ていたフライアを茶会に誘い、メイメイを紹介すると二人はあっという間に仲良くなった。
性格的に合うだろうと思っていたが、ここまでとは……。はっきりした性格のメイメイのことだ。きっとクロエやブルックリンともすぐに仲良くなるだろう。
何となくまた胸が痛んだ。私はあのブレスレット騒動の被害者ということでフライアたちと仲良くなった。メイメイはそんなことがなくてもあっという間に関係性を飛び越えてしまう。
「エリアス王太子殿下の婚約者だからもうウワサがすごいの! 絶世の美女だとか可愛らしい方でエリアス殿下の好みは意外だとか、狩猟をするお姫さまだとか、癇癪で使用人を池に落とすとか。ウワサがすごすぎてどんな方か全く分かってなかったけど、まさかウワサを上回る方だったとはね!」
「はっはっは。池に落としたのは異母姉じゃからのぅ。使用人を落とすことはないぞ。長い間、ワシは落とされる側だったしのぅ」
メイメイの独特な口調をフライアが気にしていたのは最初だけだった。ひとしきりお喋りをしてフライアは帰っていく。
「ふむ、エリーちゃんのお友達なだけあってフレンドリーで頭のいいご令嬢じゃのぅ。ああいう気持ちのいいご令嬢ばっかりだと良いのぉ。ま、それは天地がひっくり返っても無理か」
メイメイのお披露目は少し先の夜会だ。
エリアスは王太子という肩書と見目麗しい容姿で……三兄弟の中で一番人気がある。夜会ではエリアスを慕うご令嬢が変なことをメイメイに言わないといいけれど……。
アシェルの時も変なことを言ってきたご令嬢はいたから。
でも、メイメイなら自力で何とかしそうだ。それに、そんなことをするのはエリアスの性格をよく分かっていないご令嬢たちだろうから、エリアスが後日きちんと対処するだろう。
私はそんなことを考えて、胸の痛みに蓋をした。
「お呼びですか、母上」
その頃、スチュアートは不満げな顔を隠しもせずに王妃の部屋にいた。人払いがしてあるので王妃付きの侍女の姿はない。
「もうすぐケイファ王国に婿入りする息子と別れを惜しんで語らおうとしているだけじゃない」
「はぁ……そうですか」
スチュアートはうんざりした口調になる。王妃はそんな息子の姿にさすがにむっとした表情になる。
「そんな顔をしなくてもいいでしょう。表情が読みやすくて心配だわ」
スチュアートはめんどくさそうに反論しようとしたが、王妃が取り出したものを見て顔色を変えた。
「母上、なぜそれを……」




