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「あれのことなど放っておけ」と大笑いしているメイメイを引っ張って庭まで下りる。
ルルティナは池の中から助け出されていたが、ずぶ濡れで呆然と立ち尽くしていた。
一人だけ残しあとの侍女達は拭くものを取りにどこかへ行き、護衛達は肌にドレスが張り付いた状態のルルティナを極力見ないようにオロオロしていた。
「これはこれは姉上。水も滴るなんとやらですな。ワシはよく姉上達に池へと突き落とされましたが、まさか姉上が池に落ちるとは。姉上はそれほどまでに池がお好きだったのじゃな」
異母姉を気遣う優しい妹を演出するのかと思ったら、まさかの積極的に煽っていくスタイル。
ニヤニヤした表情を隠しもしないメイメイを見て、ルルティナに声をかけようとしたエリーゼは唖然としてしまった。ルルティナは池に落ちたショックなのかまだ呆然としており、メイメイの攻撃はまだ続く。
「ワシに勝手についてきて婚約者のいる第二王子にすり寄った挙句池に落ちるとはいい土産話ができましたのぅ。なかなか体験できることではあるまいて。あっはっは」
エプロンとハンカチを使ってルルティナの髪を拭っていたワイマーク王国の侍女が、豪快に笑うメイメイを睨んでいる。ハンカチとエプロンで拭いても気休めにしかならないが、そうするほかないのだろう。
靴やドレスはじっとりと濡れて泥が付いており、このまま歩いて部屋に戻ってしまうと廊下の被害が甚大だ。
「王女殿下に上着を貸していただけませんか?」
「あっはっは。エリーちゃんよ、優しいのぅ。こんな奴はこのまま放置でいいのじゃ。ワシは突き落とされて頭を押さえられてあやうく死ぬところじゃったからのぅ。こんなの可愛いもんじゃ」
近くにいた護衛騎士に上着をかけるよう声をかけたのだが、メイメイに一蹴される。
「ちゃんとお父様には許可をもらったから勝手に来たわけじゃないわ。書状も持たせてくださったもの」
ルルティナが初めて口を開いた。ツヤツヤしたブルネットの髪に濃いブラウンの瞳、そして王女らしい凛とした話し方。全く違うのにどこをルルと似ていると思ったのだろう。
「ぶぶっ。父上は新しい愛人が産んだ娘に夢中じゃからのぅ。姉上が父上のお気に入りだったのはもう昔の話じゃ。どうでもいい王女がどこの国に旅行しようと父上にとってはどうでもいいことじゃろうて。父上のお気に入りである間にえり好みせずさっさと婚約者を決めておけば良かったのぅ。いまじゃあ単なるワガママな残り物の王女じゃ」
メイメイはお国事情をペラペラ話すので、エリーゼの方がハラハラする。
「あんたみたいな汚い踊り子の娘と私は違うの。それにしてもあんた、この国に来てから随分偉そうじゃない」
凛とした喋り方ではあるが、話している内容は中々だ。
ルルティナはずぶ濡れでかなり偉そうにしていたが、メイメイの横にいるエリーゼに今気付いたように目を向けた。上から下まで見た後、ふっと鼻で笑う。
「まさか、あんたみたいに背が高いだけの女があの王子の婚約者なわけ?」
初対面なのにこれまた中々の態度である。
この場をなんとか収めようとエリーゼは口を開いた。
「はい。ハウスブルク伯爵が娘、エリーゼ・ハウスブルクです」
エリーゼの挨拶に反応はなかった。なぜならメイメイがルルティナを池に突き落としたからだ。
「えっと、なぜ突き落として……?」
「あ、エリーゼ。ちょうどいいところに!」
メイメイが間違いなくルルティナを突き落していた。唖然としながら口を開くと、庭の奥にいると思っていたアシェルがゼインを伴って走って来た。




